タイトルの「ガタカ」って何だろうと最初に感じます。実はこれ、医学的な話なので、自分の場合は納得しやすい。人間の遺伝子、つまりDNAは二重らせん構造と呼ばれる形態で、そのらせんを繋いでいるのが無数の塩基と呼ばれるもの。塩基にはアデニン、グアニン、チミン、シトシンの4種類があって、それぞれの頭文字がA、G、T、Cです。ガタカは「GATTACA」はこれを組み合わせたもの。
監督と脚本はもこの作品がメジャー・デヴューとなる、ニュージーランド出身のアンドリュー・ニコル。遺伝子を選別して優秀な子供を産むことができるようになった近未来に、遺伝子操作を受けずに生まれた「不適正者」ある主人公が、「適正者」に成りすまして憧れの宇宙飛行士を目指す話です。
ヴィンセント(イーサン・ホーク)は自然に受精し出産され、生まれた瞬間に遺伝子の検査から、いろいろな欠陥を持ち寿命は30年くらいとわかっています。弟のアントンは、受精卵の時点で遺伝子操作により優秀な素因を持って生まれ、成長と共にいろいろな面で兄を追い越していくのです。
ヴィンセントは家を出て、宇宙開発のガタカ社の清掃の仕事をしているうちに、幼い時からの宇宙飛行士の夢が膨らんでいきます。ヴィンセントはDNAブローカの紹介で、遺伝的優位性を持つ「適正者」であるジェローム(ジュード・ロウ)を紹介されます。ジェロームは優れた水泳選手でしたが、銀メダル以上を取れない重圧から自殺しようとして下半身不随の体になっていました。
ヴィンセントは徹底的な注意を払い、ジェロームの血液や尿などを利用してガタカ社に入社。ジェロームとして木星探査のパイロットに選ばれました。ジェロームも、必死に不適正者としての逆境を跳ねのけようとするヴィンセントに心から協力するようになっていました。
しかし、打ち上げが迫った頃に、この木星探査に反対する重役が社内で撲殺される事件が発生します。警察は落ちていたまつ毛のDND鑑定から、かつて清掃員をしていた不適正者のヴィンセントが容疑者として浮上しました。
同僚の適正者のアイリーン(ユア・サーマン)はヴィンセントに惹かれていきますが、ついに彼が偽物であることに気が付きます。捜査官もヴィンセントを怪しいと考え警察の捜査が迫りますが、ロケット発射を推進する局長が反対派の重役を殺した真犯人であることが判明します。
それでも捜査官はヴィンセントのもとに来て、自分が弟のアントンであることを話し、詐称を自白するように迫ります。しかし、強固な意志を持って夢を叶えようとするヴィンセントの前では引き下がるしかありませんでした。
出発の朝、本物のジェロームは一生使えるくらいのDNA材料をヴィンセントに見せ、自分は旅に出ると説明します。ヴィンセントは予想していなかった出発直前の最終尿検査に、検体を用意していなかったため自分の尿を差し出します。しかし、これまでずっと彼の検体を扱ってきた医師は、出てきた結果をジェロームに書き換えて送り出すのでした。ロケットの中で、間際にジェロームから手紙を開けると、そこには遺髪が入っていました。
近未来SFというと、情報統制が厳格で悲劇が起こるというパターンが多い。遺伝子情報は究極の個人情報であり、これを人為的に操作して人間を差別化していく社会がこの映画の根底にあります。しかし、この作品の特徴的なのは、積極的に遺伝子情報を逆利用して這い上がるというところ。
宇宙飛行士の物語とは言っても、ほぼ宇宙的なところは出てきません。他人に成り代わるというのは、むしろスパイ映画のようなサスペンスに近いものがあります。ただ、そこに夢を追いかけて必死になる人間の努力をたたえる面が人間ドラマとしての面白さを強くしています。
適正とラベリングされても、ジェロームにしても心臓が弱いアイリーンも必ずしも思い描いた人生を送れるわけではありません。遺伝子的に劣るとされても、がむしゃらに努力することが何かを生み出すことを、ここでは非合法的な方法ではありますが、しっかり描くことでいろいろな場面での勇気につながるような映画になっています。