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2021年7月25日日曜日

月に囚われた男 (2009)

宇宙物のSF作品の秀作。監督は長編第1作となるダンカン・ジョーンズ。実はこの人、あのデビッド・ボウイの息子というから只者じゃない。脚本にも参加して、なかなかの才能を見せてくれますが、以後はあまり目立った評判はとっていません。

月のエネルギー採掘基地に一人で働く男の話で、基地内のシーンがほとんどで、外での撮影は模型の月面探査車と採掘車の動きがほとんどです。

地球のエネルギー消費の70%が、月で採掘された鉱石で賄われている近未来。ルナー社は独占的に採掘作業を行っていますが、その基地で作業に当たっているのはたった一人。サム・ベル(サム・ロックウェル)は3年間の契約で、あと2週間で地球に帰れます。

基地内でのサムのサポートはガーティと呼ばれるAIで、見た目は機械ですが、人間のように相手をしてくれる。彼の楽しみは、故郷り町の木彫りの模型を作ることだったり、植物を育てること。そして、直接の地球との通信がずっと不調のため、送られてくる妻と3歳の娘からりビデオ・メッセージがよりどこになっています。

しかしサムはこのところ体調が思わしくなく、幻覚を見て右手に火傷をします。採掘機に向かい誤って探査機を衝突させてしまう。基地で目を覚ましたサムは、体が思うように動きません。ガーティは事故にあって治療中と説明しますが、外に出そうとしないガーティを不審に思い、何とか月面探査車で事故現場に向かうと、その中には自分そっくりの男がケガをして動けなくなっていました。

サムを連れて戻ったサム・・・便宜上、最初のサムを1、後から登場した方を2とします。サム2はお互いクローンだと考えます。クローンの寿命が3年で、ルナー社は地球に帰還させる振りをして新しいクローンと取り換えていたのです。

基地での異常に対処すべくルナー社は救援隊を派遣しますが、彼らが二人のサムが同時にいることを発見したら、おそらく二人とも殺されると考えたサム2は、サム1を鉱石輸送船で地球に戻そうとしますが・・・

まず、宇宙に独りぼっちという設定のSFは珍しくありません。「ゼロ・グラヴィティ」では宇宙船内に一人きりで地球への帰還を目指しましたし、「オデッセイ」では火星に一人暮らす話だったりします。「2001年」も最後は宇宙空間に独りぼっち。宇宙が広大な密室であり、一つ間違えば死が隣り合わせという空間ですから、サスペンス性は否が応にも盛り上がるというものです。

ただ、この映画の面白いところは、新しい人材を送り直すより、クローンを使って連続的に作業を継続するという発想。基本的には、古いクローンと新しいクローンは入れ替わりで登場するので、出会うことはないはず・・・だったのですが、事故によって両者が同時に存在してしまったことがスリルのスタート。

寿命が近い古いクローンはどんどん肉体的な劣化が現れ、新しい方はこの状況を解決する方策を考える。救助隊の到着というタイム・リミットを設定することで、変化を出しにくい状況をうまく動かしていきます。

出演者はビデオ・レターの妻子を除くと、ほぼサム・ロックウェル一人。しかも、独りぼっちから二人ぼっちになって、一人で二人の同じ人物を演じ分けるという難しい立場ですがなかなかの好演でした。

後はガーディの声はケヴィン・スペイシーが担当。最初のうちは「2001年」のHALのような怖さを感じますが、途中から仕事はあくまでもサムのサポートだと言って、なかなか協力的な行動をするところは嬉しくなってきます。

全体としてはクローン技術の怖さを描いているものの、クローンたち自身の悲劇も含まれており、企業の偽善的横暴にも言及するような内容です。ただし、あまり難しいことを考えるより、SFスリラーとして、いかにクローンが生き残るかハラハラしながら見るということで良いかなと思いました。