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2021年7月16日金曜日

ジョーカー (2019)

ジョーカー・・・トランプの「ババ」ではなく、アメコミの人気シリーズ「バットマン」に登場する悪役(ヴィラン)の中で、最もキャラクターの際立った存在。


バットマン映画でも、ティム・バートン監督シリーズでは名優ジャック・ニコルソンが演じ、そしてクリストファー・ノーラン監督シリーズではヒース・レジャーが強烈な印象を残しました。

しかし、どちらも、すでにジョーカーはジョーカーであり、悪役として完成した姿です。なんで、ジョーカーがジョーカーになったのか。それを描く「ジョーカー・ビギンズ」と呼べる作品がこれ。ある意味、シリーズとはまったく切り離された別の世界観の中で展開するスピンオフ・ストーリーであり、バットマンのようなアクションを期待してはいけません。

監督は「アリー/スター誕生」を手掛けたトッド・フィリップスで、脚本にも参加しています。原作を逸脱した自由な発想で、ジョーカーの誕生を作り上げました。興行的には成功し、主演のホアキン・フェニックスは、アカデミー主演男優賞に輝きました。

ゴッサム・シティのスラムに年老いた母と住むアーサー・フレックは、ピエロの扮装で街でいろいろな仕事をしつつ、人気コメディアンのマーレーに憧れていました。母親のペニーは、昔、街の名士トーマス・ウェインの屋敷に勤めていたことがあり、現在の窮状を訴える手紙をウェインに送り続けますが、返事はまったく来ません。

アレックスは緊張すると笑いが止まらなくなる持病があり、生活苦も含めて人生に疲れているのです。しかし、たまたま地下鉄でウェイン・グループの社員3人にからまれ、彼らを射殺してしまうのです。これを貧困層の人々が富裕層への報復と賞賛し、街は暴動に発展していく。

アーサーは、母親の手紙の内容から自分が母とトーマス・ウェインの間にできた子だと思い、何とかウェインに接触しますが、完全に否定され母親が精神病だと告げられる。母親が当時入院した病院で、強引に当時のカルテを奪うと、記録されていたのは母親の重度の妄想障害、自分が養子だったことなどでした。

新人コメディアンとしてマーレーのTVショーに呼ばれたアレックスは、髪を緑色に染め、緑色のシャツにオレンジのスーツに身を包み、顔はピエロのメイクで登場。自ら殺人犯であることを告白し、マーレーを射殺してしまうのでした。

暴動が激化する中で、逮捕されたアレックスを乗せたパトカーは襲われ、アレックスはパトカーの上で自分の血で唇を釣り上げて踊ってみせるのでした。

その生い立ちや境遇に不満を持つ底辺の人間が、たまたま犯した犯罪に高揚感を感じ、さらなる犯罪に手を染めていくという内容は、はっきり言って目新しいものではありません。それがジョーカーだったという点を除けば、暗い陰湿なドラマであり最初から最後まで救いはありません。

無理にバットマン・シリーズとの整合性を入れ込んだようなところもありますが、ほとんど別次元のドラマです。ヒース・レジャーのジョーカーとはかなり趣が異なる印象で、どこかで悲劇のアレックスをジョーカーとして肯定してしまっているようなところもあります。

ただ、暴動を起こしている人物がみんなピエロのマスクを付けていて、社会格差が広がれば誰もがジョーカーになるという怖さが、この映画のポイントにありそうです。少なくとも、今後作られるかもしれないバットマン・シリーズには引き継がれないであろう、特異なジョーカーとして記憶される映画です。