しかし、実はかなり演技に真面目に取り組むようで、共演者との役柄に対する議論などはすごいというエピソードはたくさんあるようです。2011年の大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」で主演してからはコメディはほぼ無くなり、以後はマイペースで納得できる役に絞っている感じがします。特に「監察医 朝顔」のシリーズは、おそらく代表作として記憶に残るヒューマン・ドラマとなりました。
演技派として開眼するきっかけになったのは・・・ドラマ「ラスト・フレンズ(2008)」あたりからかもしれないのですが、映画としてはこの作品をあげておきたい。原作は、坂田信弘原作・中原裕作画による漫画で、監督は古厩智之、脚本は林民夫、古厩智之、長尾洋平が共同で書いています。
篠宮奈緒子(上野樹里)は、小学4年生の時に両親と波切島を訪れた際に、誤って船から海に転落し、助けに飛び込んだ壱岐健介に助けられますが、健介は亡くなってしまいました。高校生になった奈緒子は、陸上競技大会の手伝いをしていて偶然に健介の息子、壱岐雄介(三浦春馬)と再会します。雄介は「日本海の疾風」と評判の短距離選手に成長していましたが、これからは駅伝を走りたいと思っていました。
西浦天宣先生(笑福亭鶴瓶)が指導する波切高校の駅伝部は、県大会に出場しアンカーの雄介が追い上げます。自分でも説明しきれない思いに駆られ、雄介を応援しようとやってきた奈緒子は、給水ポイントを手伝うことになります。走ってきた雄介にボトルを手渡そうとしますが、雄介は父の死の原因となった奈緒子であることに気がつき手を出しませんでした。そのため、脱水で倒れてしまうのでした。
西浦は雄介も奈緒子も、ずっと時間が止まったままだと考え、奈緒子に駅伝部の夏合宿を手伝ってくれないかと手紙を渡します。合宿にやってきた奈緒子は、雄介の実力があり過ぎて、他の部員との関係がうまくいっていないことを知ります。しかし、西浦の厳しい指導のもと、それぞれが走ることへの情熱を高めていくのでした。
この原作は珍しく、連載時に最初の方だけ読んだ事があります。もう30年くらい前の事ですから、ほとんど覚えていませんが、おそらく映画ではかなりエピソードを絞っていると思われます。原作をよく知っている方からは、不満が出るかもしれません。
物語の核となる奈緒子の負い目と父親を失った雄介の喪失感に特化した構成にしたことは、映画としては悪くないと思います。しかし、最後に駅伝大会の様子を持ってきたことで、本来描くべき二人の関係性修復とあらためて前に進みだすいうヒューマン・ドラマよりもスポ根ドラマの部分が強く出過ぎてしまった感じがするのが残念です。
上野樹里と三浦春馬の演技は微妙な心情をよく表現しているし、厳しくも思いやりのある笑福亭鶴瓶もなかなか頑張っているところは見所になっていますので、もっとキャストを信じた作りでも良かったように思いました。
上野樹里と三浦春馬の演技は微妙な心情をよく表現しているし、厳しくも思いやりのある笑福亭鶴瓶もなかなか頑張っているところは見所になっていますので、もっとキャストを信じた作りでも良かったように思いました。