2025年1月14日火曜日

お父さんと伊藤さん (2016)

中澤日菜子の小説が原作です。「マイ・ブロークン・マリコ」のタナダユキが監督し、脚本は黒沢久子で、いまどきの家族の形がテーマの作品。

34歳の山本彩(上野樹里)の同棲相手は、20歳も年上の54歳の伊藤さん(リリー・フランキー)。以前のバイト先で、何となく知り合い、何となく一緒に暮らすようになってしまいました。兄の潔(長谷川朝晴)から呼び出された彩は、同居している74歳のお父さん(藤竜也)をしばらく引き取ってくれと頼まれます。しかし、同居している人がいるので無理だと断りますが、家に帰るとすでにお父さんは上がりこんでいました。

お父さんは小学校教員を40年間勤め、細かいことにうるさく、人の話を聞くような人ではありませんでした。荷物の中に手で持てる程度の大きさの段ボール箱があり、彩にも伊藤さんにも触らせようとはしません。

しばらく、不思議な3人の生活が続きますが、ある日、叔母さん(渡辺えり)がやってきて、実はお父さんには万引き癖があり、どうでもいいような安物を度々万引きしては周囲を困らせていたという話をします。そして、お父さんは急にいなくなってしまい行方不明になります。

伊藤さんは、お父さんを探した方がいいと言いますが、彩は「急にいい人ぶるなんてずるい」と言い返すのです。伊藤さんは、昔の友人のつてを頼って、お父さんの携帯の電波の位置を確認してきました。それはお父さんの田舎の実家がある付近でした。

彩と伊藤さんは潔も誘って車で出かけます。すでに誰も住んでいない電気も水道も無い家で、伊藤さんは「三人でよく話ましょう。明日迎えに来ます」と言って帰ってしまいます。ところが、話をしてみてもお父さんは「一人でここに住む」と言い張り寝てしまいます。

翌日は嵐で、昼過ぎに伊藤さんが来た頃は土砂降り。結論が出ないと聞いた伊藤さんは、「今は住めないから、ここに住むにしても一度戻って準備をしましょう」と説得します。その時、庭の柿の木に落雷があり、燃えだした木が倒れて家も全焼してしまうのでした。

お父さんと伊藤さんが何となく分かり合える・・・というのは、むしろ他人だからなのでしょうか。血のつながった家族の方が、むしろわがままが表に出てしまいお互いに引くに引けない状況を作ったりします。

お父さんが大事にしている段ボール箱の中身は、火事になった際に明らかになるのですが、何でそれが大事なのかはよくわからない。行き場を失った老人を家族としてどうすればいいのか、ということも積極的な回答は出ていません。そもそも伊藤さんは何者なのか? というのもはっきりしない。

映画はすべてに答えを用意する必要はありませんし、観客に想像力をかきたたせることは重要な要素です。ただし、どれもが明快な答えが無いので、ややぼんやりとして日常の描出の連続だけになっているような映画です。ですから、この雰囲気が好きか嫌いかは、かなり分かれるところかもしれません。少なくとも、特に苦痛なく最後まで見ることができたので、悪い作品ではないと思います。