自分は医療系ドラマは基本的に見ない。何故かと言えば「嘘っぽさ」がイライラさせるから。このドラマは法医学をテーマにしていて、医療系ドラマの一つではありますが、法医学がもともと人が死亡した後を扱うこともあり、もっともフィクションが介入しやすい「命を助ける」部分が無いことと、むしろ東日本大震災を経験(原作では阪神・淡路大震災)し母を失った主人公とその父親を主軸にした人間ドラマが中心となっていることもあって、見応えのある名作ドラマとして異論はありません。
作・香川まさひと、画・木村直己によるマンガが原作。マンガから引き続き杏林大学名誉教授の佐藤喜宣が監修に当たって、医学的な問題をできるだけリアルな物にしています。「ハコヅメ」、「正直不動産」の根本ノンジが脚本、製作したフジテレビ所属の澤田鎌作、平野眞らが演出をしています。
万木朝顔(上野樹里)は、8年前に母の実家を訪れた際に東人大震災に遭遇し、母の里子(石田ひかり)が津波で行方不明になりました。駆けつけた父親で刑事の平(時任三郎)と、必死に母を探し回りますが見つけることはできませんでした。その時、遺体検案のためにきていた興雲大学法医学教室の夏目茶子(山口智子)と出会い、朝顔も法医学者になり茶子の下で勤務するようになりました。
教室には夫婦の法医学者・藤堂雅史(板尾創路)と藤堂絵美(平岩紙)、検査技師の高橋涼介(中尾明慶)も所属しており、日々の仕事をこなしていました。学生バイトだった安岡光子(志田未来)は、卒業後法医学教室に入局して、ともに働く仲間になります。
興雲大学に解剖依頼をすることが多い野毛山署には、山倉係長(戸次重幸)の指揮のもと朝顔と付き合っている桑原直也(風間俊介)が平と組んでいました。平は、今でも妻・里子の行方を捜しに、休みのたびに被災地を捜索することを続けていました。朝顔は里子の父・浩之(柄本明)に震災後初めて会いに行くことにしますが、PTSDのため駅を降りたところで動けなくなってしまいます。
朝顔の事情をすべて承知してくれた真也と結婚した朝顔は、万木家に同居を続け、やがて長女・つぐみ(永瀬ゆずな)が産まれました。家族の絆はさらに強いものになっていくのですが、ある日震災の当日に里子が持っていた手袋が発見されます。また朝顔は親しい友人の遺体を前にしてメスを持てなくなってしまいます。
しかし、山梨で起こった大規模土砂崩れで多くの死傷者が発生し、朝顔は再び多くの遺体が並ぶ現場に引き戻されるのです。人として、法医として、亡くなった方に真摯に向き合うことを思い出した朝顔は、前に進みだすことができるようになりました。朝顔は、真也とつぐみを浩之に合わせるため、平とともに再び駅に降り立つのでした。
ここまでがおおまかなストーリーですが、毎回登場する遺体は事故であったり、殺人事件だったり、あるいは病気だったり死因はさまざま。捜査と法医解剖により、時には犯人が捕まるのですが、サスペンス色は薄く、あくまでも朝顔が母の死の責任との葛藤の中で法医として成長するためのエピソードにすぎません。
全11話終了後に、全体を回顧し一部新撮を加え、特に震災時の様子を中心にした総集編がスペシャルドラマとして放送されました。さらに翌年、第2シーズンが放送されますが、異例の2期連続の全19話で編成されました。その後、2021年、2022年にスペシャルが放送され、2025年1月3日におそらく完結かる(?)ことになる最後のスペシャルが放送されました。
上野樹里にとっては、「のだめシリーズ」と共に代表作と呼ばれることになることは間違いない。多くのテレビ・ドラマの中でも、上位にランクする名作と呼んでも差し支えありません。あえて原作から改変して、東日本大震災が人々に与えた影響を整理して、どうやってそれを乗り越えていくのかを描いた作品となったことも特筆すべき点だと思います。