2025年1月30日木曜日
ハラスメント
ハラスメント(harassment)は、日本語では本来は「嫌がらせ」という意味ですが、これには意図的に他者が嫌がることをするという意味があります。しかし、現代社会で使われるときは、ハラスメントをする側の故意、過失に関わらず受けた側が不快になり精神的・肉体的な苦痛を感じる事柄全般にわたって用いられています。
一般的には、ハラスメントはむしろ意図しない行為による場合に対して用いる事が多く、故意に行われるものは「いじめ」あるいは「いたずら」という呼ばれ方をしています。つまり、ハラスメントはコンプライアンスが守られない結果として生じるものであり、「加害者」側にハラスメントをしたという意識が希薄なところに一番の難しさがあります。
これを防止するためには、絶えず自分の一挙手一投足に対して周囲の人々がどう思うのかを考えている必要があるわけですが、聖人でもない限りなかなか思考が及ばないものです。ここでも問題になるのは時代によって、そして世代によっていくらでも変わってしまう倫理観という基準です。
よく言われるのが「パワー・ハラスメント」で、頭ごなしに命令をしたり相手を無能呼ばわりする事例が出てきますが、確かに高度成長期の日本社会では、当たり前のように行われていた行為です。当時は、そのくらいの勢いでがむしゃらに生きて行かないと取り残されてしまうみたいな風潮もあったのでしょうし、それが当たり前の倫理観でした。
そういう環境で育った人々は、自分が上に立った時同じことを下の者にしてしまうというのは当然起こりうる話です。しかし、同世代で同じ環境で育ってきたわけでなければ、相手は「無理強いをされた」とか「人格を否定された」という思いを持つことも当然のこと。とにかく相手の立場を理解することを怠れば、簡単にハラスメントを起こすことになってしまいます。
また「セクシャル・ハラスメント」も問題になりやすい。女性の社会的進出が進めば進むほど、男対男の関係で行われていた様々な行為は、男対女の構図の中では通用しなくなっている。しばしば男性がやりやすいのは、女性に対して容姿に関して褒めたつもりが相手を傷つけるというもの。この場合、日頃の人間関係によってもハラスメントになるかどうかが変化してくるのでやっかいです。
自分の場合、職場の長かつ雇用主という立場にあり、ほとんどの部下は女性ですから、パワハラもセクハラもいつでもやってしまう可能性のある環境にいます。普段の接し方から、ここまでは冗談として通じる、ここからは口にしたり態度に出してはいけないというラインは自然と持っているつもりですが、相手がどのように感じるかをすべて理解している自信はありません。
少なくとも、寅さんのように「それを言っちゃおしめぇよ」を守るしかない。そのためには、自分に対して客観的になる必要があり、平たく言えば相手の身になって考えることが大切なんだろうと思います。「近頃の若い物は・・・」というのも、年長者の倫理観の押し付けにつながり、ハラスメントに起こす可能性を秘めた言葉として注意が必要です。
とは言え、昨今の何でも「××ハラ」と称することには違和感を覚えます。自分が気に入らなければ、すべてハラスメントをされたと考える人か増えたような状況には危機感を感じる部分もあります。人が許容できる範囲が狭くなって人間関係の構築が困難になると、社会の余裕がなくなってしまいます。一人一人が異なる倫理観を持っているのですから、「お互い様」を忘れた寛容の欠如は誰のためにもならないかもしれません。