2025年1月10日金曜日

亀は意外と速く泳ぐ (2005)

テレビドラマのゆるいコメディ「時効警察」シリーズの三木聡の監督・脚本による、上野樹里主演のこれまたゆる~い不思議な世界観を持った脱力系コメディ。好きな人は必ずはまる作品です。

片倉スズメ(上野樹里)は生まれてから、ごくごく平凡に生きてきました。同じ日に同じ病院で生まれた扇谷クジャク(蒼井優)とはずっとともだちでしたが、クジャクは正反対で物事にはっきりしていて、派手に生きています。

ある時スズメは、いつも通る通称、百段階段で5ミリ四方の小さな求人募集のポスターを見つけます。そこには「スパイ募集」とあり、興味をそそられ事務所になっている住宅を訪ねてみます。現れたのはクギタニシズオ(岩松了)とエツコ(ふせえり)夫婦で、「君のような平凡で目立たない小市民こそスパイにふさわしい」と、支度金500万円を渡してくるのです。

いかに平凡に暮らすかいろいろとテストされながら、今まで何気なく接していたラーメン屋のオヤジ(松重豊)、豆腐屋の主人(村松利史)らも実は潜伏中のスパイだと知らされます。スズメは、より平凡な暮らしを目指すものの、そこには秘密を守るという緊張感が生まれ、生活に張り合いが出てくるのでした。

彼らのところにちょくちょく登場する水道屋(緋田康人)は、公安警察(伊武雅刀、嶋田久作)の仲間で、スパイの正体を嗅ぎまわっていました。スズメはできるだけ目立ちたくなかったのですが、たまたま川で溺れている少年を助けてしまい注目される存在になってしまいます。そこへ十数年ぶりにスパイとして働く指令が出たことが知らされ、全員が集合することになりますが、公安も彼らの動きを察知していたのです。

・・・と、まぁ、だいぶゆるゆるの設定のストーリーなんですが、平凡はつまらないと思っていても、いざ、平凡にすることは難しいというのがテーマでしょうか。また、ちょっとの非日常が加わると、平凡さの中にもモチベーションを高める可能性を見出せるというのもポイントです。

松重豊のラーメン屋。普段は目立たないように地味な「そこそこのラーメン」を作り続けてきたんですが、スズメはこのそこそこのラーメンのファンでした。集合がかかって、もう元の生活に戻ることは無いと覚悟して、本当は行列のできるラーメン屋になれるほどの真の実力をふるった一杯を作るところは、くだらないけど感動します。

クジャクはスズメの正反対の存在なんですが、ある意味表裏一体の存在で、クジャクの派手なエピソードも形を変えてスズメも体験していくあたりも、なかなか構成の妙があります。この頃の上野樹里のほんわかとした雰囲気とマッチした、力を抜いて笑えるコメディだと思いました。