2025年1月5日日曜日

夏への扉 -キミのいる未来へ (2021)

タイム・トラベルを扱った古典的SF小説と言えば、最初に思い出すのはH.G.ウェルズの「タイム・マシン(1895)」が、そのものズバリのタイトルで有名です。その後、いろいろなSF小説が発表されましたが、1956年にロバート.A.ハインラインが発表した「夏への扉 (The Door into Summer」も、タイム・トラベルを扱った古典的傑作という評価をされています。

何しろ時間の壁を破るために、タイム・マシンと冷凍睡眠という二つの方法を駆使するというアイデアが秀逸です。タイトルは飼い猫が探しているものの象徴で、希望や夢をあきらめずに扉を探し続ければ、その向こうに必ず幸福があるというような意味を持っています。

この原作を舞台を日本に移して翻案したのがこの映画で、監督は三木孝浩、脚本は「浅田家」の菅野友恵が担当しています。作品中にMr.Childrenの「CROSS ROAD」が効果的に使われています。

両親を失った高倉宗一郎(山崎賢人)は、捨て猫を拾いピートと名付けました。父親の親友だった松下博士に引き取られ、松下の娘の璃子(清原果耶)と伴に平穏に育てられました。博士の指導で、宗一郎はみるみるロボット工学の知識を身につけていきますが、飛行機事故で松下夫妻が突然亡くなるのです。

璃子は叔父の和人(眞島秀和)に引き取られ、宗一郎は再びピートと暮らすことになります。宗一郎が研究中のヒューマノイド・ロボットは、秀人と設立したFWE社で商品化する計画でしたが、和人の愛人である白石鈴(夏菜)が巧妙に宗一郎の持株を貰い受け、和人と結託して宗一郎を会社から追放してしまうのです。


何度も大事なものを失い、打ちひしがれた宗一郎は冷凍睡眠を提供している保険会社を訪れますが、現実逃避の冷凍睡眠を好ましく思わない担当医(野間口徹)に、もう一日よく考えて見ろとアドバイスされます。

鈴と会った宗一郎は、法的には勝てないが、マスコミにすべてを話して会社の信頼を失墜させてみせると言いますが、逆に鈴によって薬を打たれ昏睡に陥ってしまうのでした。カバンから飛び出したピートが鈴の手をひっかいて逃げ出し、鈴は追いかけて外を見ると、宗一郎が運転して来た車が走り去っていくのでした。その頃璃子は和人と鈴の計画を知り、宗一郎に知らせるため自宅に向かっていましたが、その璃子に向かって一台の車が急接近してきたのです。

・・・と、まぁ、ここまでは直接的なタイム・トラベルは無いんですが、これ以上はネタバレになるのでやめときますが、おおざっぱに書いておくと、冷凍睡眠で30年後に目覚める宗一郎は、タイムマシンで30年前に戻ってくるために話がややこしくなるということです。

主な事件が発生するのは1995年という設定で、30年後という2025年、今年です。映画公開は2021年ですから、さすがに突拍子もない未来像は描けなかったと見えて、現実的なモダンな建物だったり部屋だったり、または時代に取り残された昭和感のある場所が出てきたりします。

過去に戻って、いろいろ行動を起こすわけですから、未来が変わってしまうというタイム・パラドックスが生じるわけですが、そういう意味ではタイム・トラベルというよりはタイム・ループという表現の方が近いかもしれません。宗一郎に恋する高校生の璃子が、時間を操ることでその想いを叶えるというのも、まぁ。ハッピーなら許せるということですかね。

それまでヴィジュアルから「やさしい男子」という役柄が多かった山崎賢人は、「キングダム(2019)」で新しい魅力を身につけました。ここではやさしいけど「逆境に抗う男子」になった感じがします。藤木直人が、感情が無いヒューマノイドを演じます。夏菜の30年後はかなりショッキングなので、ファンの方は要注意です。