2025年1月15日水曜日

隣人X 疑惑の彼女 (2023)

パリュスあや子のデヴュー小説が原作で、監督・脚本は熊澤尚人。設定はSFですが、中身は偏見・差別を扱ったヒューマンドラマです。

ある惑星からの難民、通称X。Xは最初に触れた人間に擬態して、まったく見分けがつきません。しかし、人間に対しては本能的に攻撃できないため、アメリカが受け入れを開始し、日本もアメリカに追従する形で受け入れを表明したのです。しかし、人々は漠然とした不安と恐怖を感じていたのでした。

笹憲太郎(林遣都)はゴシップ週刊誌記者をしていますが、たいした記事を書けないためクビ寸前の状況でした。唯一の身寄りである認知症の祖母は施設に入っていて、入所料を滞納し続けたため退去を求められていました。

編集会議でXについての特集を組むことになり、編集長(嶋田久作)は全員にどんなことをしてもいいから世間に紛れ込んでいるXを探し出せと厳命します。さまざまな情報から何人かのX候補が絞り込まれ、笹は柏木良子(上野樹里)と林怡蓮(黃姵嘉)の二人を担当することになります。

良子は36歳、コンビニと宝くじ売り場のバイトで静かに生活していました。笹は強引に近づき、デートに誘います。林は台湾から日本で勉強したくて来日し、日本語の勉強中ですが、バイトで忙しくなかなか勉強が進みません。良子と林は同じコンビニで働いていました。

笹は思い切ってXについてどう思うか良子に尋ねますが、良子は「心で物を見ることが大切なのでは」と答えるだけでした。決定的な証拠がつかめず、上司からも強く叱責されるものの、笹はしだいに良子を好きになっていくのです。林は、言葉の壁に疎外感を強くしていましたが、居酒屋のバイト仲間の仁村拓真(野村周平)に助けられ次第に仲良くなっていきます。

さまざまな疑心暗鬼から精神的にも追い詰められていく笹は、Xに襲われる夢を何度も見るのでしたが、その時に一瞬見えるXの顔が良子の父親であることに気がつきます。Xかどうかの決定的証拠としてDNA鑑定をするため、笹は良子に父親と合わせて欲しいと頼みました。乗り気ではない良子を連れて、彼女の実家を訪れた笹は父親の毛髪を手に入れることに成功します。

笹の書いた記事は、検証もされないまま掲載され、週刊誌は売り切れとなるほど評判となります。大勢のマスコミが良子のアパートや実家に押し掛け、大騒ぎになる事態になってしまうのでした。

何かずっとモヤモヤする違和感のようなものが感じられる作品で、その原因は何だろうと考えると、そもそも非現実的な世界観の中で現実的な社会問題がテーマになっているためなのかと思いました。つまり、アイデンティティが不明瞭な良子と、言葉が理解できない外国人の林という、「普通」ではない人々に対する無意識の差別を問題提起したいという意図だと思うのですが、そもそも宇宙人との関係性が想像できません。

さらに言うと、笹の視点で物語が進行するため、次第に狂気すら感じるようになる笹の行動に感情移入は到底できないということも問題です。ヒロインである良子の視点で進むなら、もっと気持ちが入り込めるのかもしれません。また、林について仁村との関係に重点が置かれ、笹のアプローチがあまりに少ないことから、物語から浮いてしまっているような印象もあります。

最後には誰がXで誰がXではないみたいなどんでん返し的なところがあるのですが、実際それを見破れるところはほとんど無いので、あまり意味は無いかもしれません。現代社会の人間関係の難しさは伝わりますが、例えばXの視点から描くようなスタイルとかだともう少し面白いのかなと思います。