2025年1月31日金曜日

まどか26歳、研修医やってます (2025)


何度か書きましたが、医療系のドラマは、やたらと誇張された医者が出てくるのが嘘っぽくて嫌い。例えば「白い××」のような権力闘争・・・実際はあるかもしれませんが、実際そんなことに巻き込まれたことはない。例えば「ドクター××」のような何でもできちゃうスーパー・ドクター・・・医者だって出来ることと出来ないことがある。

何もできない研修医から力をつけていく過程が比較的納得できるのは「コード・ブルー」ですが、ドラマとしてかなり脚色された部分は否定できません。昨年放送された「マウンテン・ドクター」は、まぁまぁ面白かったのですが、やはり設定にリアリティが乏しかったかもしれません。

さて、現在放送中の医療系ドラマはTBSの「まどか26歳、研修医やってます」なんですが、水谷緑のコミックエッセイが原作。著者は主として研修医の現実をテーマにしていますが、医療関係の仕事をしていたわけではないのに、実に医者として納得できる内容がヤバイんです。

清桜総合病院に新たに採用された研修医,若月まどか(芳根京子)、五十嵐翔(大西流星)、尾崎千冬(高橋ひかる)、桃木健斗(吉村界人)、横川萌(小西桜子)の5人が、指導医である菅野尊(鈴木伸之)、手塚冴子(木村多江)、城崎智也(佐藤隆太)、西山正樹(赤堀雅秋)らの下で、さまざまな経験を積んでいくストーリーで、これまで3話が放送されました。

自分は昭和の研修医ですから、帰りたくても帰れない生活を送り、ほとんどを病院で過ごすような生活をしていました。時間外手当なんてものは当然なく、そもそもタイムカードが存在しません。それでも、その時に経験したことは6年間医学部で学んだことよりも遥かに多くの知識となったことは間違いありません。

ドラマを見ていると、令和の研修医は「働き方改革」もあって、ずいぶんとゆるい生活をしているように見えてしまいますが、それは今と言う時代の中ではまっとうなことですし、今も昔も成り立ての医者が悩んだり苦しんだり、あるいは喜んだりすることには変わりはないんだなぁと思いました。昭和の研修医が見ても、まさに「研修医あるある」が大袈裟ではなく描かれれているところが実に楽しい。

国家試験に合格して医師免許をもらっても、人に針を刺したことは無いような右も左もわからないところでいきなり病棟に出るのですから、患者さんも大変です。自分の場合、まだ指導医という制度は無かったので、1学年上の先輩の先生がいろいろな実技を教えてくれます。点滴当番の時は、白衣のポケットに点滴用の留置針を20本くらい入れていました。先輩から、一人の患者さんで10回失敗したら呼べと言われていたものです。

当然患者さんの死と向き合う経験もするわけですが、中にはずっと忘れることは無い場合があるものです。最初の患者さんの死は、医者になってまだ数か月のころで、乳がんの骨転移で骨折した女性でした。すでに命が長くないことを悟っていた女性は、病室の天井のちょっとした模様を見て、「この天井には笑顔が無い」と寂しげにつぶやいていたんです。

背骨の腫瘍で入退院を繰り返していた、自分より年下の女性の最後の入院の主治医が自分でした。危険な状態になっていたのですが、毎日病室に詰めていたお姉さんにも疲労の色が濃くなっていました。お姉さんに「ちょっと家に帰って、風呂に入ってきていいですか」と聞かれ、今日は大丈夫ですと返事したものの、お姉さんがいない間に心停止を起こしました。お姉さんを帰してしまったことは、今でも後悔しています。

患者さんの立場から見ても、研修医は半人前以下だとは思いますが、「猫の手」になるべくそれぞれがそれなりに考えて努力していることが伝わると思います。どんな医者も、こういう時期を経験していることを知ってもらうのに、丁度良いドラマだと思うので、このまま完走してもらいたと思います。