2025年2月1日土曜日
ホットスポット (2025)
最近、コンスタントに独特の世界観を展開する脚本で注目されるのが、お笑い芸人のバカリズム。もともと1995年に結成されたお笑いコンビの名称がバカリズムでしたが、2005年に解散後もピン芸人として名称を継承しています。2011年ごろから脚本の仕事を始めており、おそらくその才能が広く知られたのは、2014年の「素敵な選TAXI」からではないでしょうか。
「架空OL日記(2017)」、「ブラッシュアップライフ(2023)」などのテレビドラマの脚本は高く評価されていて、独特のシュールなユーモアとシリアスな人の本音は一度はまったら簡単に抜け出せない魅力があります。
今期のテレビドラマでは、日本テレビの本作がバカリズムのオリジナル脚本で、今のところ第3話までが放送されました。「未知との遭遇」ならぬ「未知との日常」、「SF史上かつてない小スペクタクルで贈る、地元系エイリアン・ヒューマン・コメディ」という宣伝文句からして、興味をそそられましたが、いざ始まってみると抜群の面白さです。
舞台は富士吉田市。河口湖畔のホテル、レークサイド浅ノ湖のフロント係、シングル・マザーの遠藤清美(市川実日子)は、平凡な毎日の業務をそつなくこなす毎日を送っていました。ホテルの支配人は奥田(田中直樹)、同僚は磯村由美(夏帆)、沢田えり(坂井真紀)らで、全員特に不満があるわけでもなく、決められた通りに普通に働き、時々ちょっとさぼるのでした。
ある日、清美は交通事故に遭いそうになったところを、もう一人の目立たない従業員である高橋孝介(角田晃広)の高速かつ怪力により命を救われます。高橋は今の事は誰にも言わないようにと言って去っていくのですが、当然清美は気になってしかたがない。翌日、勤務中に清美は高橋を質問責めにしたため、高橋は仕方がなく「実はオレ、宇宙人なんだ」と言うのでした。
当然、清美は冗談と思うわけですが、昨日のことは人間業とは思えないし、消えた客室のテレビを透視によって発見したりするので信じるしかなくなります。絶対に人に言わないでと念押しされるのですが、そうなると喋りたくなるのは人の常。清美は仲良しの日比野美波(平岩紙)と中村葉月(鈴木杏)に話すと、二人から是非会ってみたいと言われランチ会に高橋を連れて行くのでした。
高橋は仕方がなく3人に話したことは・・・父親が宇宙から来た。自分は地球人とのハーフで、生まれてからずっと地球人として暮らしてきた。しかし、地球人を上回るいろいろな能力を持っているが、父親から絶対に人に知られてはいけないと言われてきた。この能力を使うと、後で熱が出たり体が痛くなって体調を崩す。仕事場のホテルの温泉は、これを治す効果があるので、ときどきこっそり入っている・・・というものでした。
ここから、物好きな「おばちゃん」たちのいろいろな「あれやって、これやって」というしょーもないリクエストによって、高橋は様々などうでもいいことに首を突っ込んでいくようになるというストーリーが展開します。
まさな未知との日常であり、小スペクタクルです。よくもまぁ、こんな設定を思いついたものだと思いますが、考えて見れば自分の日常に異質な人がいるかもしれないという状況はあり得る話。そういう状況を拡大解釈すれば、この設定はなかなかうまい。
普通の事を普通にだけ見ないバカリズムの発想転換は、お笑い芸人という枠を超えたもので、ドラマ・映画に新しい勢いを与えるものの一つとして注目に値します。あからさまにバカなことを映像化して笑いを取る監督もいますが、そのような作品は一度見ればたくさんという場合がほとんどです。バカリズムは笑いのメカニズムをおそらく知っていて、自発的に笑いを起こすことを目標にしているのかもしれません。