2025年2月8日土曜日

転校生 (1982)

山中亘の小学生向け雑誌に連載された小説「おれがあいつであいつがおれで(1979)」は、日本でおそらく初めての男女の性が入れ替わってしまう傑作で、身体や習慣の違いをユーモラスに著しました。これを原作にして映画化したのが大林宜彦監督で、脚本は剣持亘です。映画では、主人公を中学生にしたことでより性の違いが強調され、性転換の物語としてのちの作品にも大きな影響を与えました。

広島県尾道に住む斎藤一夫(尾身としのり)は、明るく仲間と悪さばかりする普通の男子中学3年生。ある日クラスに転校生として、幼馴染の斉藤一美(小林聡美)がやってきます。昔の恥ずかしい話を平気でしてくる一美に対して、一夫はいたずらを仕掛けたことで、一緒に石段を転げ落ちてしまいます。

気がつくと、二人の人格が入れ替わってしまっていて、急になよなよする一夫とがつがつする一美に周りはびっくりしますが、二人は状況を理解するにつれ、何とかお互いを演じようとじたばたすることになるのです。

一夫のともだちは、女々しくなった一夫に「お前あれついてんのか」と言ってズボンとパンツを脱がせてしまい、一夫の姿の一美はショックで学校を休んでしまいます。そのことを知った一美の姿をした一夫は、いたずらしたともだちのパンツを下ろして蹴りを入れるのでした。

そんな中、一夫の父の横浜への栄転が決まります。一美は一夫のまま再び転校しないといけなくなってしまうのです。

当初スポンサーだったサンリオが、内容を問題視して降りてしまったため製作が頓挫しそうになりますが、大森一樹監督が仲介して非商業路線のATG(アート・シアター・ギルド)が協力することになります。しかし、予算はまったく足りないため、尾道の市民の協力によりほとんど自主制作みたいな状況で完成しました。

大林監督が自分の出身地である尾道を舞台にしたことで、後に、今でいう「聖地巡礼」現象が起き、広く尾道の観光地以外の魅力を世間に知らしめることになりました。さらに続けて尾道を舞台に作られた「さびしんぼう」、「時をかける少女」は「尾道三部作」と呼ばれています。

撮影当時、小林聡美も尾身としのりも15歳。性転換の混乱を表現するために、小林聡美は上半身裸というシーンが4回あり、相当な覚悟を必要としただろうと思います。もっとも、今なら撮影不可となることは確実です。しかし、男の子が急に女性になってしまう戸惑いは、これらのシーンによって端的に表現されることになりました。

姓が入れ替わった後のそれぞれの仕草なども、わざとらしさがあるものの慣れてくると違和感がなくなり、姿に関係なく受け入れやすくなります。演技の指導もあるでしょうが、若い二人の感性が先に立っているように感じます。一夫の両親が佐藤允と樹木希林、一美の両親が入江若葉と宍戸錠、学校の担任が志穂美悦子といった面々が、周りで二人を支えています。

最後のシーンは引っ越していく一夫の車を追いかける一美、それを一夫が8mmカメラにおさめた白黒動画が用いられています。だいぶ引き離されたところで、一美はぴたっと止まり、すぐさま反対を向いてスキップをしていく。ものすごく印象的なシーンだと思います。