2025年2月18日火曜日

転校生 さよならあなた (2007)

大林宜彦監督が。予定していた別の作品が諸事情で難しくなったために、1982年の名作「転校生」をセルフ・リメイクしたもの。ただし、「あの夏の日(1999)」で尾道は最後と決めていたので、場所は長野市善行寺に変更されました。

前作でお互いに「さよなら、私」、「さよなら、俺」と言うラスト・シーンにかけて、今回の副タイトルは「さよならあなた」になっています。また、内容は前半こそ転校してくるのが男子に変えられていることを除けば、ほぼ前作と同じように展開していますが、後半はかなり思い切った変更が加えられていて、前作を知っていても新たに映画として楽しめる仕掛けになっています。

斉藤一美(蓮仏美沙子)は、長野市の善光寺近くの中学校に通っています。そこへ幼稚園で一美と一緒だった斎藤一夫(森田直幸)が、母親の直子(清水美沙)が離婚したため転校してきます。一美の家は父の孝造(田口トモロヲ)と祖父の孝之助(犬塚弘)とで蕎麦屋を営んでいて、母の千恵(古手川祐子)が手伝っていました。

一美は一夫を連れ立って、蕎麦打ちに欠かせないさびしらの水場の湧水を取りに行くことにしますが、二人は過って水場に落ちてしまい溺れそうになるのです。何とか浮き上がった二人は、呆然としたままそれぞれの家に帰りました。

家に帰った一夫は、鏡に映る一美の姿に驚き、体にも無いものが有り、有るものが無いことに気がつきます。帰ってきたのが女子なので直子も驚き、一夫は慌てて一美の家に向かいました。姿が一夫になってしまった一美も、どうしていいかわからず混乱していました。

登校しても何とか取り繕う二人ですが、一夫はピアノが得意でしたが、先生(石田ひかり)から弾いて見せてと頼まれても一美はまったくできません。学年旅行で温泉に行くと、一夫は女の子に囲まれ鼻血を出して倒れてしまいます。一美の彼氏、秀才の山本弘(厚木拓郎)は二人の態度を怪しみ、二人の心と体が入れ替わってしまったことに気がつきます。

しかし、一美の体に異変が生じます。体調を崩した一夫の心を持った一美は入院しますが、病院からは不治の病で余命はわずかであると告げられてしまうのです。一美の心を持つ一夫と弘は、一夫と仲の良かった吉野アケミ(寺島咲)に連絡し長野に来てもらいます。アケミも、一夫を見て二人が入れ替わった話を信じるのでした。

弘とアケミの協力で、一夫の姿の一美は弱った一美の姿の一夫を病院から連れ出します。二人は「駆け落ち」のようにあちこちを見て回り、お互いに自分に別れを告げる気持ちに整理をつけました。最後にもう一度さびしらの水場を訪れた二人は、またや水場の中に落ちていくのでした。

男女の心と体が入れ替わるのに「階段落ち」という定番を作った前作でしたが、大林監督はこれをどうやってリニューアルするのかだいぶ考えたのではないでしょうか。ただ、水場に落ちるというのは、階段落ちほどのインパクトは無いかもしれません。

前作はハッピーエンドでした。しかし、新三部作を終えて、新しい「転校生」は生と死を描きこんだところが一番の違いになっています。ただし、さすがに重苦しい悲しさよりも、お互いに納得し希望を持って次のステージに行くような終わり方にしているのは監督の哲学なのでしょう。

昭和のアナログ感を思い出す作品が続いていましたが、ここで大林監督は初めて携帯電話が登場しメールのやり取りをするというのは、時代が進んだことを実感します。そしてスタッフロールの最後で尾道の遠景が映し出されるのは、自ら前作にリスペクトしたのだろうと思います。