2025年2月3日月曜日

突入せよ! あさま山荘事件 (2002)

もう50年以上前の出来事・・・例えば平成生まれの人なら「東日本大震災」は、一生記憶に残る衝撃的な出来事だろうと思いますが、自分にとって「あさま山荘事件」が人生最初のそれにあたります。

学校から帰ってくると父が「テレビで本当の戦争を中継している」と興奮していたのを覚えています。テレビ各局は、朝から夕方暗くなるまてで、犯人逮捕の一部始終を生放送していました。犯人が引き立てられていく様子は、ずっと映像として頭に焼き付いています。

今の若い人には信じてもらえないかもしれませんが、1960年の日米安全保障条約締結阻止のために全国の多くの大学で学生運動が活発になり、その活動はどんどん勢いを増していました。1970年の日米安保更新で、いわゆる過激派と呼ばれた暴力を意に介さないグループがさらに勢いを増していた時代です。

その勢いは一部の高校にまで広がり、自分が通っていた学校でも校門に「革命文字」と呼ばれた独特の字体で書かれた立て看板がたくさん掲げられていました。もちろん、彼らが何故そんなことをしているのか理解することはできませんでしたから、とにかく物騒なことをしているくらいしか思いませんでした。

いろいろな共産主義思想をベースにしたグルーブが離合聚散し、ニュースでは「内ゲバ」と呼ばれる内部抗争や、××派の何某が逮捕されたというような話は日常のこと。その頂点にあるのが1972年2月に起こった「あさま山荘事件」であり、その直前に仲間内の「総括」と称する多くのリンチ殺人が発覚したことは驚きを超えて恐怖でしかありませんでした。

自分が生きてきた時を理解するための忘れ物として、あの事件、あの時代とは何だったのか、と考える一つの資料としてこの事件を題材にした映画を見ることは何かしら意味があるように思います。

この映画は、当時警察側の実質的な指揮を執った佐々淳行による回顧録をベースに、警察側から事件を整理した内容です。監督・脚本は多くの有名作を手掛けた原田眞人です。出演は役所広司、藤田まこと、篠井英介、宇崎竜童、豊原功補、田中哲司、伊武雅刀、螢雪次朗、椎名桔平、天海祐希、篠原涼子などのそうそうたるメンバーです。

大筋は現実の事件に沿ったものなので省きますが、基本的には過激派対策を知らない長野県警と警視庁から急遽派遣された警備局・機動隊らの対立を軸に、人質の安全確保、英雄にしないため犯人を殺傷しない、そのために銃の発砲は原則禁止などの困難な状況下での作戦遂行の様子を淡々と描いていきます。

ただ、本物そっくりな山荘を、鉄球で破壊していくところなどの再現性は高く、あの時のテレビ画面を再び見ているような緊張感は伝わってきました。

結末は広く知られている事件ですから、はっきり言って映画としての面白さはありません。警察を主役にしたので、犯人についてはまったく描かれおらず、ある意味多くの犠牲者も出た警察を称えるような内容です。もっとも、原作が指揮官によるものですから、これはしょうがない。

これを見て、映画監督の若松孝二は「権力側の視点だけで描かれている」ことに不満を表明し、犯人側の視点による映画を作成しています。