注目の脚本家バカリズムによる初めてのサスペンス物で、監督はバカリズムと親交が深い住田崇です。もともと、2020年にWOWWOWで1話30分全7回で放送されたドラマですが、翌年に2時間の劇場版として登場しました。
窪田一馬(井浦新)の父親は、町の小さな下請工場を経営していました。しかし、取引先の会社社長である室岡(鶴見慎吾)に騙されて、会社は倒産し、父親は投身自殺してしまいます。一馬と従弟の吾妻満(バカリズム)は、復讐するため、協力して室岡を殺すことにするのです。
・・・と、ここまでは、よくあるクライム・サスペンスの導入部なのですが、さすがにバカリズムの目の付け所は一味も二味も違います。バカリズムは、通常のドラマではほとんど省略されてしまう殺人計画を少しずつ組み立てていく過程に注目します。
二人は満の友人の事務所を借りて計画を立て始めます。そこへその友人が、キャバクラ嬢のこのは(堀田真由)を連れて現れます。このははサスペンス物が大好きで、二人に絶妙なアドバイスをし始めるのでした。
このはの意見で、誰かに聞かれてもばれないように、このプロジェクトは「いちごフェア」と呼ぶようになり、さらに可能な殺人方法も教えてもらいます。二人は使用する道具をホームセンターに買い出しに行くのですが、包丁とかバールとかロープとか、いかにもそれらしい物だけだと怪しまれるので、どうでもいいものも大量に買って帰ります。
このはにさらにアドバイスを聞きたくて、二人は務める店にでかけます。そこで、このはの同僚であるゆずき(佐久間由衣)にもいちごフェアの話をして応援してもらうことになるのです。ゆずきは占いが得意だったので、一番運勢の良い日を教えてもらい決行日を決定するのです。
このはの監督の元、公園で殺人リハーサルを行い、計画は最終段階に入ります。そして、あらためて父親が亡くなった前後の状況を調べていくうちに、父親の死そのものも室岡による殺人の可能性が出てきました。あらためて怒りの気持ちを強くした二人は、ついに直接室岡のもとに向かうのでした。
確かに一般人が、いざ人を殺そうと考えても、まぁ普通はどうしたものか途方に暮れるのがオチです。激情的に行えば、ほぼ捕まるわけで、日本の警察は世界でもかなり優秀と言われています。じっくり計画して完全犯罪を目指すのであれば、相当綿密な計画を立てなければなりません。
そこんとこをメインにドラマを組み立てるというのは、普通はなかなか思いつく物ではありません。このはというマニアの助っ人を登場させて、計画が前進していくところが面白い。また、なかなか自主性が伴わない主役の二人のキャラクターも絶妙な設定になっています。
あくまでも殺人を行おうとする過程を描くことがテーマですから、めちゃめちゃいい人である主人公二人が、最終的には悪者にならずにハッピーエンドになるまとめかたも納得です。