いわゆる超名盤・名演奏というわけではないが、ジャズ喫茶にいりびたるような青春を送った誰もが一度はリクエストしたであろうアルバムだ。
基本的なコンセプトは、ジャズ・メッセンジャースでならしたベニー・ゴルソン(ts)が作り上げた。リーダーのカーティス・フラー(tb)との絶妙のアンサンブルに、シングルトーンを基調としたトミー・フラナガン(pf)がコロコロと音を紡いでからみついていく。ベースのジミー・ギャリソンとドラムのアル・ヘアウッドはでしゃばらずに的確に隙間を埋めていく。
一聴して、スタン・ゲッツやアート・ペッパーらの白人には出せないファンキーな黒人のジャズなのだが、一番の特徴である「汗」をかかない。にもかかわらず、自然とリズムをとってしまう、この乗りのよさは、まさにゴルソンの力であろう。アドリブも楽譜に書かれているかのように、スムースに流れていき、落ち着くところに落ち着くフレーズは、まったく不安感をかきたてず、まさに正統派の楽しさだ。
全部で6曲、37分。ジャズは楽しいな、ということを再確認させてくれるアルバムだ。
ただし、だからこそ、これ以上はいらないかもしれない。もう、あと数曲続くと、きっとあまりの端正さに飽きがくるに違いない。ゴルソンは切り上げ時をしっかり知っていたにのだと思う。
村上春樹の「アフターダーク」は、このアルバムの1曲目のタイトルから取られている。、「出来るだけ簡単な文章で、出来るだけ複雑な話を書く」ことを目標にした小説だが、実際のところこのアルバムが、「出来るだけ緻密なアレンジでが、出来るだけ難しいことを考えずに楽しめる」出来になっているのだ。