19世紀にハンガリーに生まれたフランツ・リストは、作曲家として有名で、特にそのピアニストとしての技量は他の追従を許さないほどといわれています。ピアニストを目指す人にとっては、リストの曲を弾きこなすことは至難の業であり、ホロヴィツにさえ「演奏不能」と言わせるほどの難曲が目白押しです。
リストのピアノ独奏曲集は高度な技術で圧倒する曲が多い中、「巡礼の年」は大変余情的な曲想が多く、リストの作曲家としての完成度の高さを示す代表作といわれています。
1999年にフジ子・ヘミングが「ラ・カンパネラ」を引っさげて、再び世間の注目を浴び、アルバムのなかにショパンと並んでリストの曲も好んで取り上げていました。「泉のほとりで」は「巡礼の年」の中の1曲で、フジ子・ヘミングの演奏で初めて聞いたのですが、リストという作曲家のイメージ゛を随分と変えさせた曲でした。
以来、全曲を聴いてみたいと思っていましたが、全曲録音はなかなか見つからず、その全容を聞くことはあまりありません。しかし、最近やっと旧ソ連のピアニスト、ラザール・ベルマンの演奏(1977)で聴くことができました。ベルマンはリストの「超絶技巧練習曲」を弾き倒したことで有名で、その超テクで腕っぷしの強いところばかりが目立つところがありますが、この「巡礼の年」全曲で、繊細なしなやかな演奏をこなしリスト弾きとしての面目をたもちました。いずれも、すばらしい演奏で、それぞれの情景が余すところ無く描かれています。
フジ子・ヘミングはいろいろな意味で、クラシックのピアノをまじめに聞いてみるきっかけになったので、可能であればフジ子・ヘミングで「巡礼の年」を全曲聴いてみたいなぁ、と思います。