宗教、とりわけキリスト教関連の音楽というと教会で演奏されるものが主ですが、中には民衆の間に広まった世俗曲的なものも少なくありません。
その代表的なものがスターバト・マーテルですが、これはもともとは聖母信仰から生まれた世俗的な詩が元になっていて、それがカトリックの中に取り込まれたもの。
和訳すると「悲しみの聖母」で、十字架に磔刑に処されたキリストを悲しむ二人の女性、つまり聖母マリアとマグダラのマリアがイエスを思って嘆く様子が記されています。
古くから多くの作曲家が、この詩に曲をつけているのですが、細かいものをいれると数百あるといわれています。 ヴィバルディ、ハイドン、ボッケリーニ、シューベルト、ヴェルディ、プーランクなどなど、数えだすときりがありません。
しかし、有名なものとして三大スタバというのがあって、これについてはまずは異論はないだろうと思います。それが、ペルゴレージ、ロッシーニ、ドヴォルザークの三人によるもの。
さすがにオペラ作曲家として名を馳せたロッシーニのものは、宗教的というよりはオペラ的な感じ。ただ、ミサ曲ではないのでこれはこれでありというところでしょぅか。
ドヴォルザークは、相次いで亡くなった三人のこどもに捧げられたもので、たぶんに自身の悲しみがあまりに深く、全編を貫く悲哀の情感は他を圧倒します。
しかし、宗教的な雰囲気を持ちつつも、人の悲しみの心を描き出す美しさでペルゴレージのものが、一番詩の内容にマッチしているように思います。
ペルゴレージは大バッハのこどもたちと同世代で、 わずかに26歳で亡くなっているため、遺された作品は少ないものの、オペラの基礎を作った作曲家の一人として音楽史に名を残しています。
スターバト・マーテルは最後の作品とされていて、ソプラノとあるとのソロあるいはデュエットという構成。アルトが聖母マリア、ソプラノがマグたらのマリア。
アンナ・ネトレプコといえば、もともと声楽・オペラが苦手の自分でさえ、名前を知っているほど、いまや一番人気のあるソプラノ歌手です。数々のオペラ作品で絶賛されてきましたが、宗教作品はほとんどない。
そのネプレプコがペルゴレージの作品のみのアルバムをだしていて、録音も2010年と新しい。純粋な宗教曲ではなく、女性の悲しみを歌うという点では、オペラ的な情感たっぷりのヴィブラートも悪くは無い。
また、デュエットをする聖母マリアのマリアンナ・ビッツォラートが素晴らしく、二人の絡み合うところはぞくぞくとする感じです。