キリスト教の教会の1年は、待降節から始まります。待降節、または降臨節、アドベント(advent)は、人間世界へのキリスト(救世主、メシア)の到来を待ち望む期間のこと。
つまり、キリストであるとされるイエスが誕生するのが12月25日ですから、そこから逆算して4週間を待降節としているということです。一般的に、待降節の間は、禁欲的な静かな生活をして、断食と悔い改めをすることになっています。
300年前、ライブツィヒでもそれは同じ。教会ではカンタータの演奏はなく、音楽抜きの静かに礼拝が12月24日の日没まで行われていたのでしょう。バッハにとっても、ゆっくりといろいろな準備ができる期間として重要だったろうと思います。
だったら、クリスマスまでカンタータは存在しないかというと、実はあるんですね。おとなしくしているのはライブツィヒでの話であって、ワイマール時代を中心に7曲が現存しています。そのうち3曲は歌詞のみだったりして不完全で、演奏できるものとしては4曲。
12月25日のクリスマスから新年にかけては、いろいろなイベントが目白押し。先に整理しておきたいと思います。
12月25日は降誕節第1日。26日は第2日、27日は第3日で、3日の間イエスの誕生を祝います。この3日間のためのカンタータは13曲残っています。
新年までの間に日曜日が入ると、そこは降誕節後第1主日となり、残されているカンタータは3曲。
1月1日は当然新年として4曲のカンタータがありますが、キリスト教的にはクリスマスほどは盛り上がりません。新年後第1主日(カンタータ2曲あり)をはさんで、1月の6日の公現祭(カンタータ2曲あり)までの13日間を降誕節と呼びます。
公現祭は顕現日(epiphany)とも呼ばれ、新約聖書の東方三博士の来訪のエピソードに由来します。キリストの誕生を聞いて、東の方からやってきた占いをする者がイエスを見て拝み、贈りものを捧げたというもの。
降誕節の間のためのカンタータは、あわせて17曲あり、これだけでもかなり密度が高い。ところが、バッハはさらに4大宗教曲の一つに数えられる「クリスマス・オラトリオ」も作曲しています。
これは、オラトリオとバッハ自ら呼称していますが、実際は降誕節のそれぞれの祝日に対応した6曲のカンタータの連作です。しかも、ほとんどが既存のパロディで構成された点が特徴。
教会暦に沿って、まとめてカンタータを聴いていくためには、全部で23曲を13日間で聴いていくことになります。これは聴くだけでも、かなり大変。ましてや、1999年クリスマスから始まったガーディナー先生のカンタータ巡礼では、演奏をしているという・・・
さて、そういう意気込みで、いよいよクリスマス・シーズンに突入するわけですが、今日はそのスタートになる待降節第1主日。3つのカンタータがあります。
BWV61 いざ来ませ、異邦人の救い主 (1714)
BWV62 いざ来ませ、異邦人の救い主 (1724)
BWV36 喜び勇みて羽ばたき昇れ (1725から1730の間)
BWV61は数あるカンタータの中でも名曲とされ、録音も多い有名曲。ワイマール時代の作曲ですが、すでにルターのコラールを取り入れ、後年の成熟した形式になっています。1723年のライプツィヒでの初めての待降節に再演されました。
1724年には、BWV61と同じルターのコラールを元にしたBWV62が、進行中であったコラール・カンタータのシリーズとして新作されています。
BWV36は、もともとは1725年に大学教授の誕生祝賀用の世俗カンタータ(BWV36c)として作曲されました。1726年にもケーテン候妃の誕生祝賀に使われ(BWV36a)、その後教会カンタータとして改作されています。
1731年の待降節第1主日には、間違いなく教会カンタータとして演奏され、その後、1735年にも祝賀用(BWV36b)として演奏されています。バッハ自身もよほど気に入っていたのかもしれませんが、複雑な推移のせいか構成は非定型的で、途中にコラールが出てきたりする2部構成になっています。