2019年11月7日木曜日

Claudio Abbado BPO / Mahler Symphony #1 (1989)


1989年12月16日、ベルリン・フィルハーモニーで行われたアバド指揮ベルリンフィルのビデオです。

コンマスはレオン・シュピーラーで、今でも大活躍のダニエル・スタブラワとヴィオラのヴォルフラム・クリスト(お茶の水博士)が、二人とも髪が黒い。第2バイオリンのハンス=ヨアヒム・ヴェストファル(不機嫌爺)も黙々と弾いている。

さて、このビデオも大変貴重なものです。

何が貴重かというと、この演奏会がクラウディオ・アバドがベルリンフィルの音楽監督就任の始めてのコンサートだということ。

1989年10月にベルリンフィルは団員による選挙を実施し、カラヤンの次の音楽監督を自主運営の原則に則って選出しました。それが、当時56才だったアバドでした。

その直後、世界を揺るがす歴史的な事件が発生します。ベルンの壁崩壊です。11月9日に、ちょっとした東ドイツ政府関係者の勘違いから、市民が東西冷戦の象徴であった。ベルリンを東西に分断する壁に集結し、事実上の国境を自由に通過してしまう。

そして11月10日から、壁が誰からともなく壊してく作業が始まっていました。翌年までに、歴史的遺産としての一部を遺して、壁は完全に撤去されました。ちょうど、今度の週末が壁崩壊30周年にあたり、様々な記念行事が行われるようです。

本拠地ベルリン・フィルーハーモニーは、この壁の中心であったポツダム広場を見渡せる位置にあり、アバドはカラヤンの使用していた部屋に入り、さっそく就任記念コンサートのリハーサルを開始しました。

このあたりはベルリンフィル自主製作盤、「アバド・ラスト・コンサート」に収録されたドキュメンタリー「アバド最初の1年」に詳しく記録されています。

リハーサルで管楽器奏者がマーラーの指示通りに立ち上がると、アバドはびっくりした表情で、「今どき大袈裟ですから、座ったままでベルアップ(楽器を持ち上げて演奏する姿勢)でいい」と言っています。ちなみにルツェルンでは立ち上がってますね。

さて、本番では・・・さすがに緊張している様子が手に取るようにわかるスタートです。第1楽章が終わると、左から声をかけられた様子でアバドがちょっと笑う。たぶん、スタブラワあたりから「いい感じです」とか言われたんじゃないかと想像してしまいます。

最終楽章はアバドも全開の指揮振りで、手を口元に充てる癖も絶好調。オケを回しに回しての大円団です。オーケストラも新しい時代に新しいシェフとの最初の仕事をきっちりと成功させようと、全体に緊張感のある演奏を繰り広げた感じがしました。