2019年11月29日金曜日

Simon Rattle / Mahler Das Klagende Lied (1983)

グスタフ・マーラーというと、交響曲と歌曲だけを作った特異な作曲家といわれています。確かにその通りで、いくつのオペラに挑戦したことは間違いないのですが、いずれも途中で筆を折っている。室内楽も、弦楽四重奏の断片が残っているだけ。

そんな中で、この「嘆きの歌 (Das Klagende Lied)」はちょっと変わった位置づけされる曲。

まず、これがマーラーの作曲家としてのスタートの曲であるということ。そして、明確なストーリーを下敷きにした「カンタータ」と呼ばれる特徴を備えていることが特徴。

グスタフ・マーラー、18才。音楽院を卒業して、「ベートーヴェン賞」への応募作品としてこの曲を作ったと言われています。普通なら習作扱いであまり評価されませんが、後々までマーラー自身が手を入れ続け大事にしていました。

この賞の審査員にはブラームスも入っていて、結果は落選。マーラーはそのため指揮者の道に進んだと語っていますが、真偽のほどははっきりしていません。

もともとは3部構成で、第1部では弟を殺す兄、第2部では死んだ弟の骨が真実を語ります。そして第3部で、弟の代わりに王女と結婚しようとする兄の悪事を骨が暴くという内容。歌詞はマーラー自身によります。

ところが、最終的にマーラーは第1部を削除してしまい、起が抜けた承転結だけの構成にしてしまい、ストーリーだけでなく音楽的なつながりも希薄になってしまっていると指摘されています。

1973年になってやっと第1部の楽譜が出版されたので、最終版の第2部と第3部だけのものと、第1部を加えた3部構成で演奏するものとがいろいろと見つかります。

映像としては、CDにもなっていますが、ピエール・ブーレーズの2011年ザルツブルク音楽祭のビデオが、おそらく唯一のものかもしれません。これは最終版での演奏です。

1970年のブーレーズの最初の録音では第1部+最終稿の3部構成になっています。1989年録音のシャイーとファスベンダーのものも同様の構成。1997年に初稿が公開され、完全オリジナル・パーションと謳う世界初はケント・ナガノ指揮ハレ管弦楽団のようです。

有名なのは、1983年のベルリンフィルの前のバーミンガム市交響楽団でのサイモン・ラトルの3部構成の演奏。旧EMIのマーラー全集にも含まれました。バーミンガムのラトルのマーラー全集は、全体的に評判は悪くありません。

確かに第1部は、作曲者の未熟なところからくるやや冗漫な印象は拭えませんが、ラトルの熱演は随所に後年のマーラーらしさを感じられる仕上がりになっています。

とは言っても、マーラーの作品史としての重要性は認めるものの、音楽的にはワンランク落ちるという受け止めはしょうがないかと思います。