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2019年11月24日日曜日

Diana Damrau & Ivan Paley / Mahler Des Kunaben Wunderhorn (2003)

そもそも「少年の魔法の角笛(Des Knaben Wunderhorn)」は、19世紀初頭に、アルニムとブレンターノによって出版された「マザーグース」のようなもの。ドイツの民間伝承の歌の歌詞を蒐集したもので、国民の潜在意識に必ず残っているような基本文化的な存在らしく、詩人ゲーテもこれらを絶賛しています。

これらを歌詞として、新たに曲をつけた作曲家はたくさんいて、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、R・シュトラウスなどの歌曲が残されています。そして、その代表と言えるのが、そのもののタイトルをつけた連作歌曲集を作ったマーラーです。

基本的にはマーラーが詩集をもとに独自のメロディをつけたものですが、一部に原曲民謡の痕跡を認めると言われています。

マーラーの歌曲集のうち、全3巻構成のピアノ伴奏譜による「若き日の歌(Lieder und Gesange aus der Jugendzeit)」の第2巻と第3巻が「少年の魔法の角笛」を元にしたもので、合わせて9曲からなります。

いたずらなこどもをしつけるために (Um schlimme Kinder artig zu machen)
緑の森を楽しく歩いた (Ich ging mit Lust durch einen grunen Wald)
終わった、終わった (Aus! Aus!)
たくましい想像力 (Starke Einbildings-Kraft)
シュトラスブルクの砦で (Zu Strassburg auf der Schanz)
夏の交代 (Ablosung im Sommer)
別離と忌避 (Scheiden und Meiden)
もう会えない (Nicht wiedersehen)
うぬぼれ (Selbstgefuhl)

一方、オーケストラ伴奏譜による歌曲集「少年の魔法の角笛」の成立過程は複雑で、少しずつ完成していく途中で、追加・削除がいろいろあり、今日の形で一般的なのは全12曲の構成。

歩哨の夜の歌 (Der Schidwache Nachtlied)
無駄な骨折り (Verlorne Muh')
不幸な時の慰め (Trost im Ungluck)
この歌を作ったのは誰 (Wer hat dies Liedlein erdacht)
この世の生活 (Das irdische Leben)
魚に説教するバドヴァの聖アントニウス (Des Antonius von Padua Fischpredigt)
ラインの伝説 (Rheinlegendchen)
塔の中で迫害されている者の歌 (Lied des Verfolgten im Turm)
美しいラッパが鳴り響くところ (Wo die schonen Trompeten blasen)
高い知性を讃える (Lob des hohen Verstandes)

初版譜には含まれませんでしたが、「リュッケルトの詩による歌曲 (全5曲)」とともに「最近作の7つの歌」として死後に出版された2曲を含めることが一般的です。
死せる鼓手 (Revelge)
少年鼓手 (Der Tamboursg' sell)

これら以外に重要なものが3曲あります。
原光 (Urlicht)
 出版後に交響曲第2番第4楽章へ転用し、後に歌曲集からは削除
三人の天使が歌っていた (Es sungen drei Engel)
 交響曲第3番第5楽章として作曲
天上の生活 (Das himmlische Leben)
 歌曲集の一つとして作曲されたが交響曲第4番第4楽章へ転用されたため歌曲集出版時に含まれず

交響曲第2~4番が「角笛交響曲」と呼ばれる所以はここにあります。

バーンスタインは、1967~1968年にクリスタ・ルートヴィヒ、ワルター・ベリーでオーケストラ版と自らのピアノ伴奏版の2種類でいずれも原光を含む全13曲、ビデオ全集は1984年録音、ルチア・ポップ、ウォルトン・グレーンロースで全12曲、DG全集では1987年録音、ルチア・ポップ、アンドレアス・シュミットで原光を含む全13曲の4つの録音があります。

アバドは1998年にアンネ・ゾフィー・フォン・オッター、トーマス・クヴァストフを起用して原光を含む全13曲の録音があります。

ブーレーズのマーラー全集に含まれる2010年、マグダレナ・コジェナー、クリスティアン・ゲルハーヘルによる全12曲は映像化もされています。

また、全盛期のエリーザベト・シュヴァルツコップ、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウを迎えた1969年録音のジョージ・セルによる全12曲も名盤としてしばしば取り上げられます。

そして、「少年の魔法の角笛」の詩にもとづく全24曲をすべてピアノ伴奏で録音(2003年)したのが ディアナ・ダムラウ、イヴァーン・パレイで、特に「若きの歌」の含まれる9曲は録音が少ないため貴重で、テーマごとに曲順をシャッフルしていますが、まとめて聴けるものは他にはありません。

若いパレイは落ち着いて聴けますが、ソプラノのダムラウはピアノ伴奏だと高音が目立つ。ルードヴィヒ、オッターのようなメゾ・ソプラノ歌手の方がこの手の歌曲には向いているように思うのは個人的な嗜好でしょうか。

コジェナーはアバドのルツェルンでも、リュッケルト歌曲集と交響曲第4番に登場しますが、映像を見てしまうと過剰な顔と手の振りが興味をそいでしまいます。ラトル(旦那さん!)のマタイ受難曲の映像ではそれがうまくはまっていましたけど。