2020年5月10日日曜日

新型コロナウイルス対策の難しさ


パンデミックという言葉が、広く知られるようになったのは2009年の新型インフルエンザからです。

パンデミック、つまり感染症の世界的蔓延は、歴史的には20世紀初頭の「スペイン風邪(インフルエンザ)」が有名で、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行においても、参考とすべき事項がたくさんあります。

新型インフルエンザについては、パンデミックだったにもかかわらず、日本国内ではあまり大事にならず(死亡者があまりいなかった)に終息しました。また、コロナウイルスによるSARS(2003年)についても、国内では影響はほぼありませんでした。このことは、今回のCOVID-19の対策を考える上で大きな影響があったと考えることは無理がありません。

医学は知識と経験のバランスの上に成り立っているので、似たような経験事例を参考にすることは自然の成り行きです。新型インフルエンザの場合は、WHOが警戒レベルを上げて注意喚起したことに呼応して水際対策を強化しましたが、アメリカからの入国者の感染が初めて確認されました。

その後局地的に中高生を中心に感染が広がりましたが、通常のインフルエンザと同じようにただちに学校閉鎖が実施され、比較的社会的な影響が少ない中で沈静化したと言えます。今回のCOVID-19と決定的に違うのは、感染者はほぼ発症者であったことと、抗インフルエンザウイルス薬が存在していたことでしょう。

COVID-19に対する対策のこれまでの流れも、大筋、この経験に基づいていると思います(専門家と呼ばれる先生方もだいたい同じ)。学校閉鎖は3月の早い段階で行われましたが、感染者が若年層を中心としていたわけではないために、一般の理解は得られにくかったということは言えます。

また、COVID-19では、早くから感染しても無症状で、感染していることを自覚できない人々がいることが指摘されていました。これは、気がつかないうちに他人に感染させる可能性が高い事を意味していて、クラスター(集団感染)が発生してから潰して回るのでは、後手後手に回るしかないのは必然です。

また、治療薬が無いという点大きい。有効性がありそうという既存の薬は、いくつも登場していますが確実性では劣る。最終的にはワクチンが開発されるまで、決定的な武器が無い状態が続きます。

となると、人と人との接触を減らして、感染者が他人に感染させる割合(基本再生産数、あるいは実効再生産数)を1以下に抑えるしかありません。そういう意味では、WHOのパンデミック宣言も、国内の緊急事態宣言も遅すぎたと言わざるをえない。ただ、早すぎても行動自粛の理解は得にくいでしょうから、このタイミングの決定はとても難しい。

基本再生産数は、高いのは麻疹(はしか)で、15程度と言われています。つまり、一人の感染者がいると、15人くらいに感染が広がるということ。風疹は5程度。SARSやスペイン風邪は数人程度と考えられています。

COVID-19の基本再生産数は、1.4~6.6となっています。例えばこの数字の中間の4とすると、最初のたった一人の感染者が1週間程度に4人に感染し、次の1週間で16人。さらに、64、256、1024、4096、16384、65536、262144となり2か月後には26万人を超える数になります。

この数字が2以上で発症者の20%が重症化すると仮定すると、日本の場合は重症者を収容できる病院のベッド数を超えてしまうと言われています。つまり、医療の現場では命の選択を迫られ、医療崩壊の第一歩になってしまうということ。

理論的には基本再生産数をほぼ1にできれば、社会活動は容認できるわけで、1以下ならば終息に向かうということ。緊急事態宣言の出口戦略という言葉がよく登場するようになってきましたが、正確に割り出すことができない基本再生産数を、いかにその他の数字から導き出せるかにかかっているということです。