この「実験」は、それなりの成果をみたものの、マイルス自身は演奏者としての自由を求めて、1年程度で「クール」から脱却し、さらなる自由な演奏に方向転換していきます。
とは言っても、デヴュー時からまるで歌手が歌うようなアドリブを展開するマイルスは、単純な音の吹き流しはしません。一曲一曲で、いろいろな聴きどころをうまく用意していく姿勢は、他のハード・バッパーと一線を画していました。
マイルスは、1955年に念願のレギュラー・グループを結成します。当初、ソニー・ロリンズを呼びたかったようですが、雲隠れしていたロリンズにかわって、まだまだ無名に近かったジョン・コルトレーンが参加しました。
テナーのコルトレーン以外は、ピアノにレッド・ガーランド、ベースはポール・チェンバース、ドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズの鉄壁のリズム・セクションです。この最初のクインテットに自信を持てたマイルスは、当時契約中だったPrestigeレコードと決別し、よりメジャーだったColumbiaと専属契約を結びました。
Preistigeとの残りの契約分を一気に録音した、いわゆる「マラソン・セッション」から生まれた「Workin'」、「Cookin'」、「Relaxin'」、「Steamin'」の四部作は、いずれも甲乙つけがたい名作ですが、やはりColumbiaでの初録音での希望に溢れた緊張感には勝てません。
特にタイトルにもなっセロニアス・モンク作曲の「'Round About Midnight」は、マイルスがジャズというフォーマットを維持した60年代の最後まで重要なレパートリーとなり、スローにテーマから一転して激しい切り替えをするくだりは過激に続くことになります。
個人的にも、まだマイルスとは誰? と思っていた高校生の時に、レコード店でジャケットのかっこよさに最初に買ったジャズのレコードがこれだったということで、大変思い入れのあるアルバムです。
ある意味、ハード・パップ期のマイルスの集大成みたいなアルバムで、一カ所に停まっていられないマイルスは、このクインテットでできることを出し切ってしまったのかもしれません。この後、マイルスは再び新たな形を模索し始めるのでした。