2021年5月2日日曜日

遠すぎた橋 (1977)

第二次世界大戦のヨーロッパの戦いは、パリが解放されていよいよ大詰めですが、北上した連合軍はベルギー、オランダにおけるドイツの抵抗に手間取り、1944年のうちに終結することができません。

連合国軍総司令官アイゼンハワーを悩ませたのが、二つのポイント。まず、ドイツ軍の撤退が思ったより早くて、連合国軍の補給路が数か月で600km以上に延びてしまったこと。当然、補給がなければ進めない。各地の連合国軍はベルギー領内で停滞せざるを得ない状況になりました。

そして、もうひとつの問題が、イギリスのバーナード・モンゴメリーとアメリカのジョージ・パットンという二人の将軍でした。モンゴメリーは堅実な作戦をとり着実に成果を上げるものの、面子を重んじて指揮系統の支配権を率直に上申してきます。かたや、パットンは出世欲はありませんが、攻撃あるのみでしばしば全体の戦略を乱すのです。

シチリア島上陸作戦では、南から上陸した両者は、当初はイタリアへの足がかかりになるメッシーナ制圧はモンゴメリーに栄誉を譲ることになっていましたが、パットンは快進撃でモンゴメリーよりも早くにメッシーナに到達し、ライバル心を露にしています。

パリ解放は、モンゴメリーは作戦を拒否。ドイツに迫る作戦についても、アメリカが主張する広く包囲する作戦に対して、モンゴメリーは一点集中で一気呵成になだれ込む方法を主張して対立します。

連合国軍の足並みの乱れを危惧したアイゼンハワーは、やむを得ずモンゴメリー案を採用し、1944年9月、連合軍はドイツ国内への進軍に必要なオランダ内の河川を支配するため「マーケット・ガーデン作戦」を行いました。これは、敵陣内に大規模なパラシュートで降下した兵が、ライン川の渡河までのポイントを確保するというもの。

モンゴメリー将軍が立案したのは、まずマーケット作戦として、アメリカ軍第101空挺師団がアイントホーフェンに、そして第82空挺師団がその北のナイメーヘンに、そしてイギリス軍第1空挺師団とポーランド第1独立落下傘旅団はさらに北のライン川をまたいだアーネム(アルンヘム)に降下し、それぞれが橋を占拠したところへ、ガーデン作戦として陸路イギリス軍第30軍団が約100kmを進撃し、オランダを一気に通り抜けてドイツ本国への玄関口をこじ開けようというものでした。

当初からかなりの困難が予想されていましたが、オランダ領内からイギリスめがけてV2ロケット攻撃が始まったため、作戦の正当性が増していました。先に言うと、それまで快進撃をしていた連合国軍としては、ノルマンディ上陸以後最大の死者を出し撤退し作戦としては失敗。モンゴメリーにとっては汚点ともいえる結果に終わっています。

映画が作られた1977年は、「スター・ウォーズ」の年でもあり、まだSF大作でさえアナログな特殊撮影で作られ、CGなどは無い時代です。おそらく戦争映画で、リアルな車両、戦闘機などが登場し、物凄い数のパラシュート部隊が降下する様などは、これがおそらく最後かもしれません。

また、この作品も戦争映画にありがちな、大スター乱れうち状態の作品で、まぁ、次から次へとよくそこれだけ有名人を揃えたものだと感心します。監督はリチャード・アッテンボローで、ある意味これを映画として完成させるのはかなりの力量と評価できる。

さて、映画は最初から不穏な空気を漂わせています。モンゴメリーの薫陶を得たイギリス軍のブラウニング中将(ダーク・ボガート)は、部下の危険性の報告を聞かず、モンゴメリーが大した敵はいないという言葉を信じ、計画を楽観視している。実際には、偵察飛行によって予想をはるかに上回る兵力が確認できても信じません。

アーカート少将(ショーン・コネリー)率いるイギリス軍第1空挺師団は、目標より遠く離れた場所に降下させられ、大事な装備を乗せたグライダーを撃墜されます。無線機は不調で使い物にならない。アーネムでは先に町に入ったジョン・フロスト中佐(アンソニー・ホプキンス)は、橋のそばで、アーカートもその手前で敵に包囲され孤立してしまいます。

ギャビン准将(ライアン・オニール)が率いる第82空挺師団は、ナイメーヘンの手前で強力な敵勢がいて進軍をはばみます。第101空挺師団は、橋を爆破され迂回を余儀なくされますが何とかパンドール中佐(マイケル・ケイン)の第30軍団のルートを確保しました。

第82空挺師団は、ボートで川を渡り両側からドイツ軍を挟み撃ちにすることになり、この危険な任務をクック少佐に任せます。ここで登場するのが、この映画が作られた当時最大の人気俳優であったロバート・レットフォード。さすがにかっこいい。失敗に終わったこの作戦の中で、唯一勇気ある成功した部分という、とっても美味しい部分をかっさらっていきました。

しかし、天候の悪化のため遅れてアーネムの手前に降下したソサボフスキー准将(ジーン・ハックマン)のポーランド第1独立落下傘旅団も、先行したイギリス軍に近寄ることもできません。ついにフロスト中佐は弾薬も尽き降伏します。アーカートにも徹底命令が下りました。

何とかブラウニング中将の本営に戻ったアーカートは、「8000名の部下を失ってゆっくりできるわけがない」と伝え、中将は「モンゴメリー元帥は90%成功し満足している。あの橋は遠すぎた」と言うのでした。

残された結果は、投入されたイギリス軍第1空挺師団1万人のうち、撤退できたのは2000名、戦死者1000名、残りは捕虜となったのです。イギリス軍はアメリカの協力が足りなかったという言い方をしたようですが、現実に強引な作戦により多くの兵力を無駄にしただけの結果がすべてを物語っています。この後、モンゴメリーは重要な作戦からは遠ざけられ、連合軍は広正面でドイツ軍をじわじわと追い詰めていくことになります。

スター俳優が多い割には、それぞれの立場が最初から最後まで描かれ、単なるゲスト的になっていない。特に007を卒業したショーン・コネリーと「ハンニバル博士」のアンソニー・ホプキンスは、最も活躍していると言えそうです。

大戦末期の進撃する連合軍内の問題点、敗走するドイツ軍の混乱、巻き込まれる民間人、そして何よりも戦争の中で駒として簡単に敵地に送り込まれる兵士たちの存在を浮き立たせています。第二次世界大戦を題材にした物語としては、映画としてもよくできています。

やはり、人は成功より失敗から学ぶことが多い。失敗した作戦だからこそ、戦争の理不尽さみたいなところが映画の中からにじんでくるのでしょうか。アーネムの橋は、現在は再建され、最も悲惨な戦いを強いられたフロスト中佐に敬意を表してジョン・フロスト橋と命名されています。