キアヌ・リーブスは、「スピード」で人気に火がついたものの、続編を断って出演したのがこの作品。オカルトがかったスリラーですが、キアヌはアクションだけではない演技派としても認知されることになります。監督は「愛と青春の旅立ち(1982)」がデヴューだったテイラー・ハックフォード。
映画の原題は「The Devil's Advocate」で「悪魔の弁護人」というカトリック用語。悪魔の弁護人には、例えば、ある人物を聖人と認めることが既定路線だとしても、あえて反証を述べてしっかり討議された結果という体裁を作る役目があります。
キリスト教徒が少ない日本では、「悪魔の弁護人」よりも、ディアボロス(ギリシャ語で悪魔の意味)のほうが神秘的でイメージが膨らみやすい。
時には真実に反しても、フロリダ連勝記録を伸ばす弁護士ケヴィン・ロマックス(キアヌ・リーヴス)は、ニューヨークの巨大弁護士事務所に引き抜かれます。事務所の代表はジョン・ミルトン(アル・パシーノ)で、ちなみに「失楽園」の著者と同じ名前。
ケヴィンの妻メアリー・アン(シャーリーズ・セロン)は、都会暮らしを最初は喜びミルトンの主要するマンションに移った二人でしたが、しだいに仕事にのめり込んでいく夫に不安を感じ、夫の同僚の妻が魔物に見えたりして精神的に不安定になっていきます。
ケヴィンが担当したのはミルトンの重要な顧客の一人、不動産王アレキサンダー・カレンの事件でした。カレンは秘書との不倫がばれて妻と妻の連れ子、メイドの3人を射殺した嫌疑がかけられていました。ミルトンはメアリー・アンの病気を優先して事件から降りろと言いますが、ケヴィンは降りたことで妻を恨むことになることを恐れ拒否します。
しかし、調査していくうちにケヴィンはカレンの有罪を確信しますが、勝利のために無罪を勝ち取る。上司のバズーンはミルトンの裏での不正を証言しようとしていましたが、ホームレスに惨殺されます。ケヴィンにバズーンの件を話しに来た男も、ケヴィンの目の前で車に轢かれて死んでしまいます。
メアリー・アンはミルトンに犯されたといい、精神病院に入院させます。急遽。かけつけたケヴィンの母親は、ミルトンこそがケヴィンの父親だと告白し、メアリー・アンは一瞬の隙に自殺してしまうのです。
全ての元凶がミルトンであることを悟ったケヴィンは彼のもとに行き、銃を向けます。しかし、何発撃っても倒れない。実は悪魔であるミルトンは、すべてはお前の虚栄心のせいだと話し、自分の後を継ぐように求めます。しかし、ケヴィンは自分の意志だとし自ら自分の頭を打ち抜き、野望が崩れたミルトンは炎に包まれます。そして、歴史は繰り返す・・・
神に救いは無く、むしろ人をもてあそんでいるだけ。悪魔こそ、人の望みを叶える存在。それらは、世紀末に作られたこの映画で、まるで来るべき21世紀を予言しているような内容です。キリスト教的な世界観を生まれた時から理解している欧米人には、かなり突き刺さる考え方が示されている感じです。
一方、裏を返せば、原題の司法の場で、本当の罪人が無罪を勝ち取っているという現実もあるのかもしれません。ミルトン法律事務所は、まさに「黒を白」に塗り替える「悪魔の弁護士」です。映画の最後にローリング・ストーンズのヒット曲「Paint it Black」にメッセージが込められているようです。
映画の見どころは、しだいに虚栄心に溺れていくキアヌ・リーブスと、どんどん精神が崩壊していくシャーリーズ・セロン、そしていかにも愉快に悪魔を演じるアル・パシーノの演技でしょう。一部に特殊効果による悪魔的な変貌が顔を出しますが、彼ら俳優の生の演技そのものが、映画をしっかりとしたスリラーとして成立させていることは間違いありません。