2021年5月1日土曜日

パリは燃えているか (1966)

1940年5月、英仏軍のダンケルクの撤退により、ドイツ軍は一気に南下。フランス政府は、パリを無防備都市宣下し、6月14日にドイツ軍は無血でパリを占領しました。

フランスの北半分はドイツの支配下におかれ、南半分はヴィシーにドイツの傀儡政権が名ばかりの自治を行うことになりました。これに対して、ジャルル・ド・ゴール将軍は、イギリスにて亡命政府「自由フランス」を樹立し、フランス国内の国民に対して徹底抗戦を呼びかけました。

1944年6月、フランスのノルマンディに上陸したイギリス・アメリカを主とする連合国軍は、敗走するドイツ軍を追うように北東に向かって進軍していきました。上陸作戦直前に、ド・ゴールは自由フランスを元にフランス共和国臨時政府を北アフリカのアルジェに樹立し、フランス解放軍を組織しました。臨時政府は、国内の市民らのレジスタンスをまとめる全国抵抗評議会と内地フランス軍と連携をとります。

レジスタンスはいろいろな組織の集合体で、実際はパリ解放後の実権を巡って主導権争いが活発でした。連合国軍の反攻開始は、彼らの4年間のくすぶっていた気持ちも盛り上げて、すぐにでも蜂起する勢いになっていきます。ド・ゴールも影響力を最大限に発揮するため、連合軍の総司令官アイゼンハワーに、パリの解放を急ぐように強いリクエストを寄せました。

連合国軍からすると、パリは軍事的な要衝ではなく、またベルリンに向かうには遠回りを余儀なくされる場所であるなどの理由で、本来は後回しにしたかったようです。しかし、フランス人にとっては、パリは母国の象徴であり、何よりもドイツからの自由を回復することが精神的な勝利につながるものでした。

ド・ゴールは、連合国軍からの離脱さえちらつかせ、なかば強引にアメリカ軍をパリに向かわせることに成功します。これに対し、ヒットラーはディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍を新たなパリ占領軍司令官に任命し、何があってもパリを明け渡してはならないと強く命令しました。

さらにヒットラーは、敵に渡すくらいなら灰にしろと命じます。実際、同じ頃にポーランドのワルシャワは、ドイツ軍撤退時に完全に破壊され廃墟と化す状況に陥っています。このヒットラーのパリに対するこだわりの理由ははっきりしないのですが、おそらく若いころに画家を目指していたヒットラーにとって、芸術の宝庫としてパリには大きな価値を見出していたのかもしれません。

この映画は、国内レジスタンスが蜂起し。連合国軍がパリ市外に入り解放されるまでを、名匠ルネ・クレマン監督が史実にのっとって映画化したものです。脚本は、フランシス・フォード・コッポラ。実際の記録映像も交えて、セミ・ドキュメンタリーのような白黒の構成です。

最新のブルーレイ版は、冒頭のヒットラー登場シーンはドイツ語ですが、他は基本的にフランスの俳優の台詞は英語に吹き替えられています。全編フランス語版もあるようですが、やはり「史上最大の作戦」のようにそれぞれの国の人物が母国語で話す方が自然です。

映画では、ヒットラーが暗殺計画の直後、大本営「狼の巣」にコルティッツを呼び出しパリ占領軍司令官に任命するところから始まります。爆破された会議室や、ヒットラーも傷を負っている様子が描写されています。8月7日にパリに着任したコルティッは、緩んでいた軍を引き締め、パリを完全破壊する縦鼻を始めます。

8月15日、警察、地下鉄、郵便局などが一斉にストライキを開始。次々と建物にフランス国旗を掲げ始めます。8月19日に、内地フランス軍のロル大佐を中心に、ついにレジスタンスが武装蜂起しました。しかし、彼らの武器は連合国からの供与もありますが、大半はドイツ軍から奪ったものや手製の火炎瓶など。対するドイツ軍は戦車も出動して応戦します。

中立国スウェーデンのラウル・ノルドリンク領事の仲介で両者は休戦協定を結びますが、ロル大佐らの急進派は無視して画策。パリ郊外で包囲する形をとっていた連合国軍陣地へ、部下のガロア少佐を派遣し、連合国軍のバリ進攻を取り付けます。そして、フランス解放軍のルクレール将軍が独断先行する形で、8月23日ついに進軍を開始します。行く先々の町での歓迎ぶりがすごい。

パリのドイツ軍は、パリ市街地の要所に爆薬を設置。しかし、すでにヒットラーの狂気とドイツの敗北を確信しているコルティッツは、爆破することなく無条件で降伏し、ノートルダム寺院の鐘が高らかに鳴らされました。司令部の電話機の向こうから、ヒットラーの「バリは燃えているか? (Brennt Paris?)」の声が聞こえていました。

映画の最後、空撮によるパリ市街の映像が、ここだけカラーで流れてエンド・ロールになります。3時間近い作品ですが、やはり背景となる連合軍やフランス軍、レジスタンスなどの関係があらかじめわかっていないと、登場人物が多すぎて内容の理解がしづらいかもしれません。

基本的な主役は、ドイツ軍司令官であるコルティッツ将軍で、「史上最大の作戦(1962)」ではロバに乗ってコーヒーを届ける下っ端だったゲルト・フレーベです。「007/ゴールド・フィンガー(1964)」で存在感を示し、この映画で将軍に昇進して帰ってきたという感じ。また、ノルドリンク領事はオーソン・ウェルズで、この二人のやり取りだけをテーマにした「パリよ、永遠に(2014)」という映画も作られています。

その他の出演者は、大勢のフランスとアメリカのスター俳優で、オール・スター・キャストによる群像劇のスタイルです。いずれもストーリーに深く関わるわけではなく、ほとんど一瞬の顔見世興行みたいな感じ。大スターが起用されているだけに、かえって思わせぶりなだけ。

ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンが一つの画面の中にいるのはちょっと感動。シャルル・ボワイエ、レスリー・キャロン、ジョージ・チャキリス、カーク・ダグラス、グレン・フォード、イヴ・モンタン、アンソニー・パーキンス、シモーヌ・シニョレ、ロバート・スタック他、知った名前のオン・パレードです。

第二次世界大戦の中では、戦略的な意味づけは乏しいかもしれませんが、パリ解放はドイツの敗北を強く印象付ける出来事としては象徴的であり、映画で知るにはこの映画一択という作品ですから、外すことはできません。