2021年5月4日火曜日

バルジ大作戦 (1965)

1944年秋以降、連合軍は「マーケット・ガーデン作戦」の失敗により、前線に近いオランダからの補給路を確保できず、ベルギーからフランス北東部に広く停滞せざるをえませんでした。東部戦線でも、バグラチオン作戦後、戦力立て直しためソビエトもポーランド東部で動きが停止します。

劣勢のままの膠着状態を打破するため、ヒットラーは普通なら動きにくい冬の厳しい時期に、大反攻作戦を指示しました。ドイツ側からは「ラインの守り作戦」と名付けられたのは、アルデンヌから連合国軍の補給基地があるベルギーの港湾都市アントワープを数日間で目指す電撃戦でした。

アルデンヌはベルギー、フランス。ルクセンブルグにまたがる森林が多い高地の丘陵地帯で、開戦当初にはドイツ軍の意表を突いた突破により、英仏軍は「ダンケルクの撤退」に追い込まれています。

この作戦は、ある意味ドイツ版「マーケット・ガーデン作戦」みたいなもので、さらに長い180km、しかも厳冬期に進撃するという無謀なものでした。当初、この地域の戦闘は想定していなかった連合国軍は、一気に攻め込まれ総崩れ状態を呈します。このドイツ軍が入り込んだ突出部(バルジ)にちなんで「バルジの戦い」と呼ばれています。

現実には、12月17日に開始された急激な進軍に対する十分な補給ができなかったため、1週間たっても最大80kmで停止。クリスマスを境に連合国軍は体制を立て直し、天候の回復により空軍の攻撃も加わったことで、年明けには突出部を南北で挟み撃ちにする(南は驚異的な速さで到着したパットン将軍)形で形勢逆転し、1月23日にヒットラーは退却を指示しました。

双方に多大な犠牲を出す結果となった戦闘で、連合国軍はドイツ本土への進撃計画に遅れが生じます。しかし、ドイツにとっては最後のまとまった兵力・装備を喪失する結果となり、敗戦を決定づける戦いになったことは間違いありません。

映画は主だった出来事は史実にのっとっていますが、登場人物はモデルはいるもののほぼ架空のもので、細部のストーリーはフィクションです。スペイン陸軍が全面協力し、多数の戦車が縦横無尽に走り回るのは迫力のある映像で、監督はケン・アナキンが務めました。ただし、戦車同士の戦闘シーンではどうみても模型というところもありそうです。

しばしば指摘されてのは、戦車は現実のアメリカ軍、ドイツ軍のものとは大きく違い、スペインのロケ地もとても真冬の景色とは言えない。アイゼンハワーは引退後に、到底受け入れられないストーリーとし非難を表明しています。

最初に見せてくれるのは、連合軍の気の緩み。偵察と捕虜の尋問を主として行っているカイリー中佐(ヘンリー・フォンダ)は、アルデンヌ付近のドイツ軍の不穏な動きを察知して報告しますが情報部は信じません。最前線にいるのは、戦争が終わって戦利品を売って商売することぱかり考えているガフィー軍曹(テリー・サバラス)や、寒さが強まって待機所の中でクリスマスの準備をするウォレンスキー少佐(チャールス・ブロンソン)です。そして補充されてた兵員は、まだ戦ったことが無い者も多い。

一方、ドイツ軍は、開戦以来の歴戦の勇士であるヘスラー大佐(ロバート・ショー)が、戦車隊司令官として赴任してきます。将軍は、天候の悪化による空軍が出撃できない隙を突いて、アルデンヌから新型戦車を先頭に、50時間以内にアントワープを陥落させる奇襲を説明します。

しかし、ドイツ軍も兵員不足であり、戦車隊のメンバーは戦闘経験の無い者ばかり。それでも、戦う意思は強固で、パンツァー・リート(戦車の歌)を高らかに歌い団結を示します。さらに、英語を話せる兵士をアメリカ軍の服装で連合国軍陣地内に降下させ、通信網を切断するなどの後方攪乱を同時に行います。

一気に進軍したヘスラー率いるドイツ軍戦車部隊は、怒涛の進撃で連合国軍司令部のあるアンブレーヴを占領します。ヘスラーは、別動隊が捕えた捕虜を親衛隊が虐殺したことで、かえって敵の士気が上がると憤り、戦争が続く限り自分にとっての勝利であり、戦場が我が家だと言い放ちのです。

連合国軍司令官のグレイ少将(ロバート・ライアン)は、戦車の燃料が無くなってきていることに目をつけ、マース川で総攻撃をかけることにします。ヘスラーは燃料が不足しているため連合国軍の燃料集積所を狙いますが、必死の抵抗にあい全滅。生き残ったドイツ軍は、武器を捨て徒歩でドイツ目指して帰還していくのでした。

一番の見所は、(本物とは違いますが)大規模な戦車が走り回るところで、ソビエトはこの映画に対抗して「ヨーロッパの解放」を作ったと言われています。しかし、実は人間ドラマとしての側面が映画を成立させているところが大きく、フィクションが多いことで成立できたポイントです。

戦争屋であるヘスラーの身の回りの世話をしてきたコンラッド軍曹が、ついに人間としての信頼を失い、「あなたは人殺しだ」と詰め寄るところ。ヘスラーは、戦争の中にしか自分の価値を見出せない。見方によっては、この映画の主役と言ってもよい存在です。

グレイ少将は、戦いのために多大な犠牲が出ることを承知で出撃させることにためらいを見せます。刑事出身のカイリー中佐は、長年培った「勘」から「捜査」のために危険を顧みない。

捕虜となったウォレンスキーは部下の命のために果然とした態度で臨み、商売っ気たっぷりだったガフィーも戦う意義を見出していきます。新米で逃げることばかりを考えていた中尉も、何故自分がここにいるのかを発見して成長していきます。戦車が主体の戦争映画としては、よくできた作品で、名作と言われているのも納得できる。

1945年、いよいよ戦局は終盤となり、2月にヤルタ会談が行われ、勢ぞろいしたローズベルト、チャーチル、スターリンの三巨頭は、戦後を見据えたドイツの扱い方を協議するのです。