2022年3月24日木曜日

塩味の話


どんな料理も、味の基本中の基本が塩味。塩に対する理解は、作る上でも食べる上でも大切なことです。

そもそも塩って何?・・・塩化ナトリウムで、化学式だとNaClです。人に限らず生物にとって、生きていくために無くてはならないミネラル。もちろん、取り過ぎは健康に良くはありません。

料理に使われるのは、一般に食塩と呼ばれますが、基本的には塩化ナトリウムそのもの。ただし、自然界のさまざまな別のミネラルを微量ですが含んでいることで、食塩によって微妙な違いが生まれてきます。

工業的に作られる物は精製塩と呼ばれます。主として輸入された塩を一度水に溶かした後に純度を高く精製したもの、あるいは海水をイオン交換膜透過法で濃縮して作り、99%以上の塩化ナトリウムです。

もう一つが自然塩。いろいろな成分が混入しているため、塩辛さは減り(甘味を感じる)旨味が増えますが、別の言い方をすれば雑味が強い。

代表的な自然塩の原料は海水。海水には水以外の成分が3.4%含まれ、このうち塩化ナトリウムは2.8%を占めています。残りの0.6%は塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウムなどで、大きな意味では「塩分」と呼ぶことができるものです。

代表的な製法は天日塩(てんぴえん)と呼ばれ、海水を塩田にまいて水分を蒸発させたもの。ただし、日本のような雨の多い気候では難しく、すべての天日塩は輸入品と言われています。日本で作られるものの多くは精製塩ですが、歴史的には主として海水を釜で煮詰める煎熬(せんごう)方法が取られてきました。さらに高温で煎るものは焼き塩と呼ばれます。

昔、海だった場所に閉じ込められた海水が結晶化したものが岩塩(がんえん)です。岩塩には塩化ナトリウム以外のミネラル分がより多く含まれ、特にインド、パキスタン、ネパールなどで採取されるピンク色のものが手に入りやすい。ヒマラヤ山脈で採取される物は、色が濃くなり希少な物とされています。他にもアンデス山脈やモンゴルなどで産出される物もあります。

ビーズ状に砕かれたものはミルで崩しながら使いますが、使って楽しい反面、粒子が大きい分思った以上に味が濃くなってしまいやすいので注意が必要。一般に岩塩は、塩辛さが強めで、いろいろなミネラルによって味も違って来るので、料理を選ぶかもしれません。

陸地に閉じ込められた海水が結晶になる前の水だった状態なのが、いわゆる塩湖というもので、塩湖はカスピ海(東ヨーロッパ)、バルハシ湖(カザフスタン)、グレートソルト湖(アメリカ・ユタ州)、死海(イスラエル)、ウユニ湖(ボリビア)などが有名。この湖水から作られるのが湖塩で、海水塩と岩塩の中間的な位置にあります。

塩にハーブやスパイスを混ぜてある物はフレーバー・ソルトと呼ばれ、シンプルに黒胡椒やニンニクと合わせたものはよく見かけます。より匂いが特徴的な物としては、山椒、柚子、そしてトリュフなどもあります。いろいろなハーブ類が混合され万能調味料として便利なクレイジー・ソルトという商品も有名。

さて、自分のレストランでも使用していて日高シェフのお勧めは、クリスマス島の天然海水による天日塩です。クリスマス島をネット検索するとオーストラリアに属する島がヒットしますが、塩で有名なのは太平洋のほぼ真ん中付近、キリバス共和国の島で、発音に近いのはキリスィマスィ島です。キャプテン・クックがクリスマス・イブに上陸したので命名されたということらしい。

日高シェフが、「ちょっと塩」と言いながら、けっこうたくさん塩を振りかけている感じがして気になっていたんですが、実際に使ってみるとかなり優しい塩味でなるほどと思いました。太陽の光でひたすら濃縮させ、一切の精製作業が入っていないのに、この完璧なまでの白さにちょっと感動します。