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2023年11月13日月曜日

犬神家の一族 (1976)

名匠、市川崑監督が横溝正史原作の金田一耕助が登場する「探偵小説」を実写化したのは、1976年の「犬神家の一族」が最初でした。角川春樹事務所が手掛けた、いわゆる「角川映画」の第1回作品で、それまでの邦画界にはなかったメディア・ミックスの手法で一世を風靡したことは特記すべきことでした。

原作は1950年に発表されたもので、横溝作品としては必ずしも高評価とは言えないところもあるのですが、この角川のプロモーションの成功により、テレビ・ドラマ化も何度もされ、今では最も知られている作品になっています。

特に湖面にさかさまに殺された被害者の二本の脚が突き出たシーンは、抜群のインパクトで誰もが鮮烈な印象を持ったことは間違いありません。市川崑は以前から久里子亭(くりすてい、アガサ・クリスティのもじり)というペン・ネームで脚本に参加するほどでしたので、この仕事を快諾したと言われています。

原作に登場する金田一耕助は、人なつっこい笑顔の体格は貧相な青年ですが、身なりには無頓着。よれよれ着物に袴という書生姿で、お釜帽をかぶった髪の毛はぼさぼさに伸ばし、興奮するとかきむしってフケを飛ばしてしまう。

これまでに映画化された金田一耕助は時代順に片岡千恵蔵、岡譲二、河津清三郎、池辺良、高倉健、中尾彬らがいましたが、古いほどスーツ姿で決めていて「フィリップ・マーロウ」を意識していたものと思われます。今作では石坂浩二が金田一を演じましたが、初めて原作に忠実な実写化がなされており、これ以降の西田敏行、古谷一行、鹿賀丈史、豊川悦司らの金田一はこのスタイルが踏襲されています(渥美清だけ除く)。

戦後すぐの那須湖畔に地域の名家、犬神家の大邸宅がありました。当主であった佐兵衛(三國連太郎)が亡くなり、遺産目当てに長女の松子(高峰三枝子)、次女の竹子(三条美紀)、そして三女の梅子(草笛光子)を中心に一族が集まってきます。松子、竹子、梅子にはそれぞれ佐清、佐武、佐智という息子がいました。

犬神家の顧問弁護士をしている古舘(小澤栄太郎)は、不穏なものを感じ金田一耕助(石坂浩二)を呼び寄せるのでした。金田一は犬神家に住む野々宮珠世(島田陽子)が乗ったボートが沈みそうなところを助けます。これは、珠世と結婚した者が遺産を想像するという遺言を巡っての連続殺人事件の前奏曲でした。

と、まぁ、犯人が誰かが一番の問題です。興味があったら、是非本編をご覧ください・・・ということなんですが、実は悩ましいことが一つあります。市川崑監督、石坂浩二主演でもう一つの「犬神家」があるんです。

作られたのは2006年で、30年ぶりのリメイクという位置づけ。ごく一部は変更点はあるものの、ほとんど1976年版と台詞もカット割りも変わらない。基本的に同じ脚本を土台にしています。石坂浩二(金田一)、大滝秀治(神官)、加藤武(警察署長)は同じ役で登場。松子は富司純子、竹子は松坂慶子、梅子は萬田久子、佐清は尾上菊之助、野々宮珠世は松嶋菜々子です。

豪華なキャスティングで話題性は十分ですが、なんでここまで同じものを作る必要があったのかが不明。灰皿のアップで、まったく同じ形・柄の灰皿が映し出されるこだわりには驚きます。まして、市川崑にとってはこれが遺作となってしまったことは、さぞかし面白くなかったのではないかと思います。若者から中年男になった金田一というのが多少興味深いところがありますが、そのまま顔つきが年食っただけというのが結論です。