フィルム・ノワールの代表的な一作で、アカデミー賞では主だった賞にノミネートされ、美術、脚本、作曲の各賞を受賞しました。監督はビリー・ワイルダー。ワイルダーというと都会派ラブコメの名手という印象がありますが、戦後活躍始めた頃はフィルム・ノワールを牽引する重要な監督でした。
ワイルダーはユダヤ系オーストリアの出身で、当初は脚本家として売り出しますが、ナチス台頭により1933年にフランスに亡命、俳優ピーター・ローレらと共に翌年アメリカにわたりました。戦時中からハリウッドで監督して使われるようになり、最初のヒット作はフィルム・ノワールの名作とされる「深夜の告白 (1944)」でした。
1945年にはアルコール依存症を真っ向から取り上げた「失われた週末」がアカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞(レイ・ミランド)、脚色賞を受賞し、名実ともに戦後ハリウッドを代表する映画監督の一人に名を連ねることになりました。
ジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)はハリウッドの売れない脚本家で、借金り取り立て屋ら追われ、サンセット大通りの手入れもされず放置されたような大きな屋敷に逃げ込みます。そこはサイレント映画時代の大スターであった、今は年老いたノーマ・デスモンド(グロリア・スワンソン)の邸宅で、執事と暮らしていました。
誇り高いノーマは再帰を願って、サロメを自ら演じるための脚本を自作しており、ジョーに過去の遺物にすらならないような脚本を泊まり込みで完成させることに強引に決めるのです。ジョーも渡りに船と引き受けてしまいます。
しかし、過去の栄光をひきづるノーマの要求には困難がつきまとい、週に何度か過去の出演作の映画を見させられ、時には下僕にように扱われ、ノーマの選ぶ服を身につけなければならないのです。ついに息苦しくなったジョーは街に逃げ出します。
しかし、そのためにノーマは自殺未遂を引き起こしたため、ジョーは戻ってノーマの歪んだ執念と妄想の中にはまり込んでいくのでした。そこへ撮影所からノーマの所有する古い車を撮影に使いたいという連絡が来ますが、ノーマは自分への出演依頼と思い込み、異常な精神はもはやブレーキが利かなくなっていくのでした。
ウィリアム・ホールデンは名優ですが、この時は30歳そこそこで、まだまだ駆け出しの俳優の一人でした。しかし、この映画をきっかけに演技派として認知されるようになりました。グロリア・スワンソンは、まさにサイレント時代の大女優。よくぞ、こんな役を引き受けたものです。戦前1934年が最後で、16年ぶりの復活でした。ちなみに、本人役の「エアポート'75」が最後の出演でした。
そのスワンソンの鬼気迫る演技が最大の見せ所で、時代が変わって忘れ去られた過去の栄光にすがる様は、まさに本人にそのまま当てはまる。実際、たくさんの女優にオファーを断られたようです。執事役の方も、昔のサイレント時代に監督をしていたエリッヒ・フォン・シュトロハイムが演じているところがすごい。
ノーマのトランプの相手として登場するのもバスター・キートンだったり、ノーマが会いに行くのも本物のセシル・B・デミルという、まさにサイレント時代のハリウッドを支えた人々が登場するのも見所です。