角川映画「犬神家の一族」から始まった市川崑監督の石坂浩二の金田一耕助は、その後東宝でシリーズ化されましたが、1979年に再び角川春樹事務所が金田一物を作ったのは東映。しかも金田一耕助には西田敏行がキャスティングされました。笛(フルート)が重要なアイテムだからということか、音楽は邦楽界の重鎮、山本邦山が担当しています。監督は斎藤光正です。
今だに謎を残す昭和28年に発生した帝銀(帝国銀行)事件をモチーフにしています。青酸カリによって行員12名を毒殺し、逮捕された平沢貞道は死刑判決を受けるも執行前に獄死しました。この話では、天銀堂という宝石店に置き換えられ、容疑者として取り調べを受けた元子爵の椿英輔(中谷昇)が釈放後に自殺したことから話が始まります。
英輔の妻、椿秌子(鰐淵春子)は妖艶な美人で19歳の娘、美禰子(斎藤とも子)、秌子の伯父で元伯爵の玉虫公丸(小澤栄太郎)、秌子の兄で陰気な新宮利彦(石濱朗)、英輔に気に入られ居候している三島東太郎(宮内淳)らが、同じ屋根の下に暮らしています。
美禰子は死んだはずの英輔からの「この家には悪魔が住んでいる」という手紙を見つけ不安になり金田一耕助に連絡を取るのです。椿家に招待された金田一は、親族一同がこっくりさんのような占いで火炎太鼓のような模様が浮き出て驚愕するところを目撃します。また、生前に英輔がレコードに吹き込んだフルートの独奏曲が流れだし、集まった者はさらに恐怖の表情を浮かべます。
そして、その夜、玉虫公丸が閉ざされた室内で殺されてしまうのです。これは、さらなる椿家の因縁に絡む連続殺人事件の始まりでした。金田一は等々力警部(夏八木勲)と共に捜査を開始するのでした。
他にも、二木てるみ、村松英子、池波志乃、山本麟一などが登場します。チョイ役で中村雅俊、秋野太作、梅宮辰夫、金子信雄、浜木綿子、中村珠緒、さらには角川春樹、横溝正史まで出てくるというサービスぶりです。
西田金田一は、石坂浩二で評判がよかった原作に忠実な着物に袴という書生姿で登場し、トレードマークのお釜帽をかぶっています。これはあえて映画の石坂浩二、テレビの古谷一行の二枚目イメージを覆すためのキャスティングです。
しかし、映画として成功しているかと言えば・・・市川崑作品の完成度が高かっただけに、複雑な人間関係を説明しきれていない上に、フルートにこだわり過ぎた演出がやや鼻につく感じがします。
角川映画のキャッチフレーズに「見てから読むか、読んでから見るか」というのがあったと記憶していますが、さすがにこれは先に原作を知らないとちんぷんかんぷんという感じ。ただし、原作を知っていると、なんじゃこりゃという出来と言わざるを得ません。