原作は森沢明夫の小説。監督は廣木隆一。
写真家を目指す学生の河合夏美(有村架純)は、同棲している相羽慎吾(工藤阿須加)が写真を諦めて実家の造り酒屋を継ごうと思っているという話に腹を立て、一人でバイクを走らせ、昔父と蛍が飛び交うのを見た山村に出かけます。夏美のカメラもバイクも、今は亡き父親から譲られたものでした。
夏美は村のたけ屋という雑貨屋に立ち寄ります。店をやっているのは、事故で足が不自由な中年男で、近所のこどもたちから「地蔵さん」と呼ばれ親しまれている福井恵三(光石研)とその老いた母ヤスエ(吉行和子)でした。夏美は彼らと仲良くなり、家に滞在させてもらうことになります。慎吾もやって来て、結局二人でたけ屋にやっかいになることになりました。
近所に一人で住んでいる気難しい仏師の榊山雲月(小林薫)も、しだいに心を開いていきます。恵三は離婚して家族に何もできなかった、雲月は家族を捨てて仕事を選んで村に移り住んできた、そして夏美の父はひとり親のバイクレーサーでしたが、突然の病で他界してしまったのです。夏美は父親の夢であるレーサーの道をあきらめたのは、自分のためではないのかと思っていました。
ある日、恵三は動脈瘤破裂で倒れ危篤に陥ってしまいます。雲月は別れた妻と子に合わせてやれとヤスエに言いますが、ヤスエはうちのことに口を出さないでと言い、夏美と慎吾にも帰ってくれと言うのでした。一時、意識を取り戻した恵三は、皆がいればいいと強がるのです。
ヤスエは夏美と慎吾の助けを借りて、別れた妻と子に頭を下げに行きました。面会に来た二人を見て、恵三は心から喜ぶのでした。慎吾は今まであきらめてばかりだった自分に気がつき、一人東京に去っていきます。
恵三は夏美に、昔、ふらっと店に来たバイク乗りの話をします。事故で仲間を亡くし悩んでいた彼に、恵三は三つの恵みがあると教えました。この世に生まれること、親に愛されること、そして親になって子を愛すること。お父さんは夏美のことを本当に愛していたんだよと教えるのです。
恵三の葬式。やってきた慎吾は、夏美に酒造りの難しさとそれに立ち向かう決心がついたことを話し、夏美は雲月に恵三にそっくりな地蔵を彫ってくれと頼みます。それから3年たち、慎吾は身重の夏美と共に再びたけ屋を訪れました。締め切ったたけ屋には人の気配はなく、近くの祠に恵三に似たのと、小さなヤスエに似せた2体の地蔵が祀られていました。
作品としては地味な印象ですが、有村架純の現在の女優イメージを形作る原点のような映画。迷いをたくさん持つ若者が、田舎での他人との交流の中から、少しずつ大切なものを得る流れの中で、父親に対する思いを強く持つ主人公を演じています。
映画では吉行、光石と小林のベテランが、しっかり脇を固めていて、若い有村と工藤を支え切っているところが素晴らしい。
有村架純も女優ですから、当然恋愛映画もあるわけですが、何しろこちらが苦手なジャンルであまりそこに時間を割きたくない・・・ということで、紹介だけしておきます。
2015年 ストロボエッジ 福士蒼汰とW主演で高校生の役。
2017年 ナラタージュ 松本潤とW主演で、大学生。高校の時の恩師との恋。
2021年 花束みたいな恋をした 菅田将暉とW主演。大学生から社会人になる5年間。
「ストロボエッジ」のみ恋愛成就ですが、あとは残念な結果。「フォルトゥナの瞳」と「月の満ち欠け」も恋愛がメインではありませんが、どちらも恋愛は不成立で終わっています。どうも、あまりハッピーエンドにならない役が多いみたいですが、そこがリアリティにつながり、女性からも支持されるところなのかもしれません。