警察物のドラマも山ほど登場してきますが、警察の特殊部隊を主役にする物語はあまりありません。そんな中で、2014年にTBSの日曜劇場の枠で放送された「S - 最後の警官 -」はけっこう骨太のベースのもとに作られたドラマでした。
原作は作・小森陽一、画・藤堂裕によるマンガで、犯人を生け捕りにして死なせずに確保することを目的とした架空の組織、警視庁特殊急襲捜査班(NPS, National Police Safetyrescue)の物語。警察に実在する組織として、制圧を任務とするSAT(特殊急襲部隊)、捜査を任務とするSIT(特殊事件捜査係)があり、NPSは両者の機能を備えた第三の「S」という設定です。
元警視庁次官で今でも暗然たる力を持つSATの生みの親、霧山六郎(近藤正臣)が、NPS創設の発案者でした。霧山はひそかにテロリストの正木圭吾(オダギリジョー)を利用して、犯人を死なせないというNPSでは対処できない事件を起こさせ、SATの力を増強し犯人を殺すことを厭わない組織に改編していくことが目的でした。NPSは目的を達成するためのスケープ・ゴートだったのです。
SAT隊長の中丸(高島政宏)の腹心の部下だった香椎秀樹(大森南朋)は、犯人殲滅を厭わない中丸と袂を分かち、NPSの隊長に就任。副官の速田(平山浩行)、交渉術に長けた古橋(池内博之)、警察犬を操る梶原(高橋努)らとチームを組みます。そして、ある事件をきっかけに犯人が死ねば残されたものは怒りを向ける相手がいなくなることから、犯人も死なせてはならないという信念を持つ警察官、神御蔵一號(向井理)をスカウトします。
SATには一流のスナイパーである蘇我伊織(綾野剛)がいて、たびたび一號と衝突するのですが、蘇我は姉を殺されたことで犯人は死をもって裁くべき考えていました。一號の考えに同調することはありませんが、いくつもの事件を経てしだいに一號のやり方も認めるようになります。蘇我に劣らない射撃の腕を持つ林イルマ(新垣結衣)が加わりますが、彼女もまた犯人を死なせることは絶対にできないと考えていました。
ドラマの最終話で、霧山の意志によりNPSは壊滅するはずでしたが、SATが協力して無事に事件を解決しました。しかし、主犯の正木は取り逃がしていて、翌年公開された劇場版映画が本当の最終回という位置づけになっています。ドラマの内容はほとんど知っているものとしてストーリーが展開するので、最低限このくらいの知識が無いと映画版は理解できないと思います。
しばらく潜伏していた正木は、日本からフランスに向けて運搬されるプルトニウムを積んだ貨物船を占拠し、日本政府に閣僚全員が乗船することを要求します。NPS、SATだけでなく実在する海上保安庁のSST(特殊警備隊)も加わり、総力戦による奪還作戦が始まりました。
しかし、正木の目的は閣僚を人質にして大金を手にすることではなく、また霧山の意図した強大な力を持つ犯罪者に対する警察力の無能さを世間に知らしめることでもなかったのです。SST隊長の倉田(青木崇高)のこどもの乗るバスをジャックし揺さぶりをかけつつ、貨物船を東京湾に戻し、核爆発により関東全域を壊滅させようとしていたのでした。
ドラマから登場する一號の恋人ゆづる(吹石一恵)、科学警察研究所主任で香椎の良き理解者である横川秋(土屋アンナ)らも加わり、スケールの大きな戦いが描かれています。「誰も絶対に死なせない」というのは医者の言うことだけではなく、警察の中でも同じような設定が生きていて、いろいろな考え方をする人物も公平に配置することで、奥行きのあるストーリーに仕上がりました。
テレビ版から引き続き、監督は平野俊一、脚本は古谷和尚が担当。丸腰で凶悪犯に立ち向かうというのはリアリティのかけらもないと批判される部分もありますが、テレビ版放映前から、映画化が決定していただけあって、ストーリーの無駄を省いて、一気に駆け抜ける爽快感がある映画になっています。