2024年6月16日日曜日

ちひろさん (2023)

目下のところ、有村架純の主演映画としては最も新しい作品。原作は安田弘之によるマンガで、人気風俗嬢の日常を描いた作品。ただし、風俗を辞めて海辺の街にやったきた様子を中心とした、続編にあたる部分を映画は描きます。

監督は「からかい上手の高木さん」で注目される今泉力哉。製作総指揮はWOWWOWを主戦場とする岡野真紀子、製作会社は最近次々と話題作を提供するNetflixです。だんだん映画の製作形態もネット寄りになってきたことを実感できます。

のこのこ弁当で売り子として働くちひろ(有村架純)は、以前風俗嬢であったことを隠すことも無く、当時の源氏名のまま呼ばれ、愛想が良く評判は上々です。

オカジ(豊嶋花)は目立たない女子高校生で、家では細かい親に従順ですが、ちひろの町での様子に興味を持ち、ちひろにも気に入られ感化され自分を表にだすようになっていきます。

まこと(嶋田鉄太)は小学生。母親はシングルマザーで、あまりまことの面倒は見ていません。ちひろにいたずらを仕掛けたことで知り合い、弁当をもらったり一緒に遊んだりするようになりました。

べっちん(長澤樹)は、オカジと同級生ですが、引きこもりで高校へはほとんど登校したことがない。隠れ家にしていた廃屋ビルにマンガを置いていて、ちひろと知り合い意気投合します。

バジル(van)は風俗時代からのちひろの友人のニューハーフ。ちひろの分け隔てのない付き合い方が好きで、今でもときどき一緒に食事したり遊びに出かける仲。

内海(リリー・フランキー)はちひろが働いていた風俗店の店長で、今は熱帯魚店を営んでいます。気のあるバジルが店を手伝いますが、娘のように思えるちひろに関わることで、バジルとちひろの間に亀裂が入るのです。

尾藤(平田満)はのこのこ弁当の店主で、ちひろが風俗嬢だったことを知ったうえで、お弁当を綺麗に食べきったことが気に入り雇うことにしたのです。妻の多恵(風吹ジュン)は、唯一ちひろが本名の古澤綾で接する母親のような存在で、視力を失い入院中です。

特別に大きな事件が起こるわけではなく、日常の普通の出来事がさざ波のように寄せては引いていくようなストーリーなんですが、ちひろの純粋な心が自然と周りに人々を集め、まるで疑似的な「家族」を形成していくような雰囲気を作り上げています。

それは家族のいない孤独なちひろにとってはどこかで欲しているはずなんですが、実際に表に見え始めるとちひろは距離をとるように身を引いてしまう。おそらく過去の家族に対する嫌な思いがあるのかもしれません。

それにしても、どうしても「かわいい」イメージが先行する有村架純に「したくなっちゃった」と言わせ、付き合っているわけでもない男と一夜を共にするシーン(まぁ、ほとんど何も見えませんけど・・・)が登場するのには驚いた。作られたイメージを踏襲しつつも、大人の女性としての変わっていこうとする姿勢の表れなのかもしれません。