2024年6月13日木曜日

コーヒーが冷めないうちに (2018)

原作は劇団音速かたつむりの川口俊和による舞台劇で、後に自ら小説化したもの。監督は多くのテレビ・ドラマを手掛けた塚原あゆ子、脚本も奥平佐渡子という女性ペアが作り上げたところも注目です。

時田数(有村架純)と叔父の時田流(深水元基)がやっている街の古くからある喫茶店「フニクリフニクラ」は、ちょっとかわったところがあります。特定の一つの席に座って、数が淹れたコーヒーを飲むと過去に戻れるのです。ただし、過去に戻っても現在の状況には変化は起きない、コーヒーが冷める前に飲み切らないと現在に戻れなくなるという条件があります。

1週間前に急にアメリカに転勤で旅立った男ともだち(林遣都)と喧嘩になってしまった清川二美子(波瑠)は、戻って彼に言いたいことがあるという。しかし、その席にはずっと女性(石田ゆり子)が座っていて、なかなか席が空きません。二美子は席を替わってもらおうと女性の肩に触れると強い息苦しさを感じるのです。数は彼女は「幽霊」みたいなもので、20年前にコーヒーを飲み切らなかったために戻ってこれなくなったと説明します。

女性はたまにトイレに立つので、その隙に二美子は席について数にコーヒーを淹れてもらいます。すると水の中を落ちていくような感覚があり、1週間前に戻っていました。二美子は男ともだちの気持ちを確かめきれないうちにコーヒーが冷めてしまいそうになり、慌てて飲み干し「今」に戻ってきました。現在を変えることはできませんが、二美子は思い切って彼と連絡を取りアメリカに旅立つ決意をし、未来は変えることができることに気がついたのでした。

よく来店しずっとコーヒーを飲んでいる初老の婦人(薬師丸ひろ子)は、いつも男性(松重豊)が迎えに来ます。婦人は夫に何か渡したいと考えているようですが、実は認知症が進行して迎えに来る男性がその夫であることさえわからないのでした。

男性は数にコーヒーを淹れてもらい、まだ妻が認知症が出ていないときに戻ります。妻はこの店の過去に戻れることを知っていて、夫が未来から来たことを理解します。夫は何か自分に渡し忘れているものがあるかと聞くと、妻はカードの入った封筒を渡しあなたは未来に帰りなさいと言います。カードには自分の認知症のことが書かれていて、自分のことで無理しないように書かれていました。

スナックを営んでいる平井八絵子(吉田羊)も常連客。ときどき郷里から訪ねてくる妹のことは避けていて、伝言を置いて行っても読みもしません。実家の旅館を嫌がって都会に出てきて、すべてを妹に押し付けたことが重くのしかかっているのです、しかし、その妹が突然交通事故で亡くなってしまいます。

平井は前回妹が訪ねてきたときに戻り、今までの事を謝りたかったのですが、時間切れで戻るしかありませんでした。そして、郷里に戻り旅館を継ぐ決意をして帰っていくのでした。

数は店に通う新谷亮介(伊藤健太郎)と次第に仲良くなり、ついに妊娠します。実はずっと例の椅子に座っている謎の女性は数の母、要なのでした。数は、母親にコーヒーを淹れたこと、そして自分が一人残されたことがずっと心にあって、素直に受け入れることができないでいたのです。亮介は数の重荷を取り除くため、ある方法を思いつくのでした。

可愛らしい顔立ちから、「女の子」らしい役回りが多い有村架純ですが、ふわ~とした雰囲気から、徐々に癒し系の役柄が増えてきました。この映画は、そんな人を和ませる雰囲気がみられる作品です。ただし、心にある種のトラウマを抱え、芯の強い女性という、ある意味典型的な有村架純が得意なジャンルと言えそうです。

タイム・スリップ系のファンタジー作品なのですが、SFではなくあくまでも誰もが一つは心に刻んでいる「後悔」を解決するための道具として過去に戻るという状況が出現します。そして過去を振り返っても、起きたことは変わらない。でも、区切りをつけることができれば、人は未来に向かって前向きになれるというメッセージが込められています。

タイム・スリップ映画では、しばしば時間軸が混乱しやすいのですが、数自身のエピソードについては、よく見ていないと、そしてよく考えないと何でそうなるのかわかりにくくなります。集中して見るようにしましょう。