2024年6月19日水曜日

前科者 (2022)

保護司は「仮釈放で出所した受刑者の保護観察にあたり、犯罪者の更生を助けることで犯罪を予防する。非常勤の国家公務員だが、報酬はない」と説明があります。最近、保護司の方が保護対象者に殺害されるという事件が実際に起こり、その仕事について大変注目されました。

もともとは香川まさひと・作、月島冬二・画によるマンガで、2021年にWOWOWドラマとして6話が放送されました。続いて、オリジナル・ストーリーとして監督・脚本を岸善幸が担当して映画化されたもの。

阿川佳代(有村架純)はコンビニでのバイトをしながら、保護司をしている女性。女性らしい気遣いする一方で、時には保護対象者のダメなところは強い調子で叱責するのです。

殺人罪で収監された工藤誠(森田剛)は、半年前に出所し担当の保護司、阿川佳代のものを訪れました。佳代は普通に生きることが大事で、工藤にも必ず更生することができると話しました。その後、工藤は町の自動車修理工場で働き、愛想が無く笑うこともありませんが、しっかりと仕事をするようになっていました。

ある日、近くの交番で巡査が襲われ、拳銃を奪われる事件が発生します。何とか一命をとりとめた警官は、実は職権を利用して恐喝などをしていたのです。刑事の鈴木(マキタスポーツ)と滝本(磯村勇斗)の事情聴取にも答えようとしません。

そしてDV被害者の保護をしていた区役所の福祉課の田辺やすこが、奪われた銃で撃たれて殺害される事件が起きます。警察には「偽善者に天罰がくだった」という内容の文書が送られてきます。

その頃、工藤に近づいてきた男がいました。麻薬中毒になっていた弟の実(若葉竜也)でした。夜の河原に散歩に行こうという実に付いて行くと、実は通りかかった自転車の男性に銃を向け射殺するのでした。男性は二人が入っていた養護施設の担当者でした。

工藤は観察期間の最期の面会をすっぼしてしまったため、仮釈放が取り消されてしまいます。さらに、被害者の爪の間から工藤のDNAが検出されたため、容疑者として警察に追われることになってしまうのです。滝本は事情を聴くために佳代のもとを訪れます。

実は、加代と滝本は高校の時同級生でした。通り魔に襲われそうになった佳代を、滝本の父親が助け、身代わりに殺されたのです。滝本は犯罪者は何度でも罪を犯すんだと言うのです。かつて工藤の母親が夫のDVを相談したが相手にしなかった警官、逃げた母子の転居先を夫に教えてしまった福祉課の職員、そしてその結果母親は殺されているのです。そして、兄弟が送られた児童施設で二人に暴力をふるっていた職員。それらが被害者だと話します。

二人の父親、遠山史雄(リリー・フランキー)の住所を、彼の弁護をした宮口弁護士(木村多江)から教えてもらい、加代は遠山に会いにいきます。佳代が工藤のこどもの時の話を聞いていると、工藤と実がやってきます。しかし、次の標的として、遠山をマークしている警察が包囲していたのです。

クライム・サスペンス風の連続殺人が起こりますが、あくまでも保護司として前科者に寄り添う阿川佳代を軸としたヒューマン・ドラマです。ここでの有村架純は、これまでにやったことがない大変難しい役をこなしています。

劇中、かつて保護対象者だった斎藤みどり(石橋静河)が、ところどころで登場し佳代の本質を少しずつ明らかにしてくれますが、「まともに生きている人たちが、まともにできなかった犯罪者に立ち直れと言っても説得力が無い。佳代はまともに生きてこれなかった弱さがあるから信じられる」というような発言をしていて、加代の複雑な心情を代弁しています。

過去のトラウマを引きづり続けている女性というのは、有村作品では多いパターンですが、ここで心を負おう暗雲は最高レベルですし、それを力にしてさらに同じようなトラウマを持つ人々に寄り添うという複雑な状況は簡単ではありません。

台詞は多くありませんが、トラウマを持つ前科者として、そしてだからこそ兄弟の絆を優先せざるを得ないという工藤という男も、ものすごい存在感があります。森田剛は、ここでも優れた演技力で、見るものを圧倒してくれます。

テレビのシリーズは見ていませんが、映画だけでも大変見応えがあって、コロナ禍であまり話題にならなかった印象なのが残念です。