2021年11月16日火曜日

テネット (2020)

2020年のコロナ渦により、大きな影響を受けた映画の一本。度々の延期の末、9月に劇場公開したものの、当然ながら劇場での興行収入はまったく伸びず、クリスマスに公開した「ワンダーウーマン1984」にも遠く及ばない結果になりました。


監督・脚本・制作はクリストファー・ノーラン。時間軸をいろいろいじって来る名手で、これまでの作品以上に複雑な展開は一度見ただけでは到底理解できるものではありません。そういう意味では、早々にネット公開され、DVD・Blurayが発売されたことは悪いことではないかもしれません。

主人公の黒人男性(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、名前が無い。脚本上も「PROTAGONIST(主人公)」となっているだけ。ウクライナのオペラハウスでプルトニウム241を奪取したCIAスパイを救出する任務に就くが、ロシア人たちに捕らえられ自決用の毒薬 - 実は睡眠薬を飲む。実は作戦はテストであり、唯一の合格者として戦争を阻止する為の「TENET」の一員となります。

そして研究室で弾痕から拳銃の中へと逆行する弾丸を見せられ、未来からもたらされたものと説明される。残りのプルトニウムも未来から送り込まれたもので、主人公はその調査に当たることになります。在英ロシア人の武器商人アンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)が未来人と関与しているという情報をプリヤという闇商人から得て、協力者のニール(ロバート・パティンソン)と共に、セイターの妻であるキャサリン(エリザベス・デビッキ)に接触します。

キャサリンは贋作画家アレポと深い関係にあり、セイターはアレポの描いた贋作をあえて落札し、妻を脅迫して自由を束縛していたのです。主人公はセイターが贋作を保管しているオスロ空港の秘密倉庫を襲撃しますが、逆行してきた武装兵に邪魔される。何とか政府が保有しているプルトニウムを奪うことでセイターを信用させようとしますが、作戦はすべてセイターに筒抜けで、強奪した直後に主人公はキャサリンと共に拉致されます。


そこへニールがプリヤの舞台を連れて駆け付け、セイターら過去に逃亡しますが、キャサリンは重傷を負い、彼女を助けるためにオスロ空港内の逆行マシンで1週間時間を戻すことにします。・・・って、ここまで書いてみて、正直何が何だか理解できません。テレビのCMで逆走する車とかがさんざん映っていましたが、本編で観ても何でそういう事態になるのか・・・う~ん、脳がもうだいぶ固くなっているんですかね。とにかくオスロ空港に戻ると、前回邪魔に入った武装兵は実は自分というパラドックス。

とにかく、未来から何者かがセイターに9つあるプルトニウム・・・アルゴリズムと呼んでますが、揃えることを指令し、それが集まって何かが起動すると今の世界は一瞬で終わるということらしい。主人公、ニール、プリヤの部隊はアルゴリズムが隠された場所に向かうのでした。

評論家諸氏からの評判は高い。よくぞ、この複雑な時間軸を同一画面で実現したと拍手喝采のようです。自分からすると・・・ここまで複雑にする意味がわからない。ノーラン讃美者からは怒られそうですが、単なるタイムスリップとして描いてはいけなかったのか。興行収入が上がらなかったのはコロナ渦の責任だけなのか。

いきなりタイム・スリップするのではなく、時間を逆行するというプロットは面白いし、少なくともそこは大前提として認めないと映画が成立しません。ただし、一番気になったのは、時間を逆行してキャサリンのケガを治すという発想。肉体的な変化が消えるのなら、当然その間に起こった脳の変化、つまり記憶とかもリセットされるのではないか。

名無しの主人公は、まさにこの映画の本当の意味での主役で、ほぼすべての起こっている事柄に未来で関わっているらしい。ある意味、そういうネタバレ的なことを知っていないと、簡単には理解できない映画です。難しくすると「名画」とか、あるいは「カルト」とか言われて賞賛する雰囲気がありますが、それは10年、20年後の評価です。

現時点では、奇才クリストファー・ノーランの作品としておさえておくべき作品であることに間違いはありませんが、真の評価が定まるのはだいぶ時間がかかりそうです。