2008年4月17日木曜日

手術の賞味期限

関節リウマチの患者さんは、しばしば手術が必要になります。歩行に障害を来すことは重大な生活上の不便を伴いますので、膝や股関節の手術、あるいは足の手術が多くなります。

自分は女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターに常勤でいた時には、主として手の外科とよばれる範囲を専門にしていました。実際には膝関節以外は何でもやっていました(膝は教授を筆頭に専門の先生がいくらでもいましたので)。

開業してからは、手術の時間も限られるので、めんどうな手の手術ばかりをするようになってしまいました。

リウマチ手で手術になることが一番多いのは、手の伸筋腱断裂です。伸筋腱というのは、指を伸ばすための筋肉の紐の部分です。手首の関節炎のために痛んでしまい切れてしまうのですが、しばしば小指の方から順番に断裂してしまいます。

小指だけなら、比較的不便が少ないのでほったらかしにしている患者さんも多くいますが、薬指、中指と順番に切れてくると大変に不便です。だいたい、この辺までに患者さんは手術を決断します。そうすると、人差し指には予備の腱があるので、一本を切断して、切れた他の指につなぎ直すという方法が簡便ですし、あとの動きも良好です。

今までに、人差し指も切れてしまい、親指以外の指が全部伸ばせなくなってしまった患者さんの手術を2回したことがあります。1回目は切れてから数ヶ月でした。きれた後の断裂した腱の状態がわかりやすく、一番縫いやすい腱を利用して再建しました。術後成績は十分生活に使える用になったと思います。

そて、もう一度は・・・今日です。今回は・・・困った。何てったって、断裂したのが5年前からのことなのです。半年くらい前に最後の砦の人差し指が伸びなくなったために、ついに手術を決断されたのです。

さて、実際手術で中の状態を観察してみると、なんと腱がありません。唯一比較的最近まで動いていたと思われる人差し指さえ、何となく残っているかなぁ・・・という程度。他の指の腱は完全に萎縮してしまい、見つかりません。さすがに5年の月日は長すぎです。予想していたとはいえ、予想以上のものです。

しかたがないので、別の場所から余分な腱を切り取ってきて、1本の弱々しい腱と、全ての指の腱の断端を結びました。ただ、もとの原動力になる筋肉がどれだけ動くかが問題です。しかし、つながなければ偶然にも動くことさえありません。とにもかくにもつながれば、後のリハビリ次第である程度の動きができる可能性があります。さぁ、これからが大切ですよ。何とか動いてもらいたい物です。

関節リウマチの患者さんに限らず、日本人は手術をできることならしたくないという思いが強いのです。自分も日本人ですから、わからないわけではありませんが、今日の例のように時間がたてばたつほど、手術は難しくなり、手術の効果もわからなくなってくることがよくあることを、是非知っておいてもらいたいと思います。

たいてい手術のリスクばかりを気にすることが多いのですが、手術をしないリスクもあるということです。自分は手の機能回復に対しての手術の説明をリウマチの患者さんにする場合には、「賞味期限」を併せてお話しします。

つまり、今の状態ならば、こんな手術をしてこのくらいの回復が期待できます、という話と同時に、しない場合はどうなるかという説明をして、さらに「この話の有効期限は6ヶ月間くらい」というように付け加えるのです。

今日は、やはりリウマチの手術は「やり頃」があるということを、あらためて認識したのでした。