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2011年1月29日土曜日

Gerhard Oppitz / Schubert Piano Works

と、いうわけで、この冬はシューベルトのピアノ曲にはまってしまいました。それにしても、クラシックCDの価格の低さには驚かされます。セットだと、CD1枚について数百円で、数千円で全集が手に入る。

昔のLPレコードの時代だと、シューベルトの主だったピアノ・ソナタを揃えるとなると、だいたい10枚くらいは最低でも必要で、2万円から3万円くらいはかかっていただろうと思います。今時、3万円も出すセットはきわめて希で、そういう値段の物はCDが100枚くらいのボリュームがあったりします。

そう考えると、演奏者の方々には何とも申し訳ないような気分になりますが、とにかく低価格で至福の時を過ごすことのできる幸せというものはありがたいものです。

それで、シューベルトなんですが、とにかく初期から中期のソナタは内容が混乱しているので、いろいろなセットが存在します。

つまり、①全楽章が完成しているものだけを集大成したもの、②未完成のものも未完成な状態で含めて集大成したもの、③未完成部分を別の小品などで埋め合わせて完成した形にして集大成したもの、そして④未完成部分を補筆して完成した形にして集大成したものといった具合です。

もう、これはそれぞれの人の好みの問題みたいなところがありますので、どれがいいとも言えません。どんな形であっても、奏者の演奏の解釈にはいろいろあって、結局完成している部分の出来不出来が「名盤」と呼ばれるかどうかの分かれ目なんだと思います。

ゲルハルト・オピッツは1953年生まれのドイツのピアニストで、現役ピアニストの中では古典派からロマン派の曲については本道を進む一人と目されています。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の次に始まったのがシューベルトの全集で、昨年完成しついに今月ボックスセットが発売になりました。

新着の全集としては期待度大でしたが、残念ながら大変がっかりしたというのが正直な感想なんです。まず、発売元のレコード会社の特徴らしい残響の多い録音が、なんとも気持ちをそいでしまいます。

もちろん好き好きなんですけけど、やはりすぐそこで弾いているようなクリアな音の方が好きですね。残響が多いと、演奏が遠くなってしまいますし、音符がかたまって聞こえてしまいます。

そして、入れ物の安っぽさは相当びっくりしました。中身が問題とは言え、いくらなんでも白い箱にシールをはっただけというのは海賊盤なみです。聴く前から、なんとなくめいってしまうわけで、そう思うと全12枚セットのボックスで1万2千円という値段もずいぶんと高い感じになってしまいます。

それでも、演奏がよければと気を取り直して、聴き出してみるととにかく一本調子でどうもいけない。シューベルトの特徴である詩情豊かな曲想、反復と転調が多く、やや起承転結が不明瞭なところが、すべて悪い方に出ているような感じがします。

完成作品を選択して、未完成部分はあくまで小品として別扱いしている真面目さが裏目に出ているというのでしょうか。まっこうから取り組んでいる姿勢はわかるのですが、あまりに正面からぶつかって、面白味のない演奏になってしまいました。

いろいろな奏者の演奏を聴いてみると、クラシックは必ずしも楽譜をなぞって演奏するだけではないということがひしひしとわかります。奏者の取り組み方しだいによっては、ずいぶんと印象の違う物になってしまうわけで、必ずしも有名な人の演奏だからといって素晴らしいとは限らないということをあらためて教えてもらったわけです。