2011年1月9日日曜日

Schiff & Dalberto / Schubert Piano Works

シューベルトはモーツァルトなどとは違い、生前は比較的地味な作曲家で31年間の短い生涯の中で、おそらく食うや食わずの生活をしていた時期のほうが長かったのではないでしょうか。

ベートーヴェンは早くからシューベルとの天才を認めていたことは有名ですが、だからといって楽譜をどんどん出版して演奏会をやってというわけにはいかなかったようです。

そんなわけでか、とにかく書き出したけど途中でやめてしまった曲が多く、研究家はしばしば頭を悩ませることが多い。第21番まであるピアノソナタも混乱していて、どうも実態がよくわからない。

第1番 あるべき第4楽章がない。
第2番 やはり第4楽章がなく、Allegretto D346が第4楽章であるという説がある。
第3番 もともと2楽章、後年3楽章が追加されて、本来ソナタかどうか疑問。
第4番 全3楽章で、初めて完結した作品。
第5番 あるべき第4楽章がない可能性がある。
第6番 これも第4楽章がなく、Rondo D506が第4楽章と考えられている。
第7番 全4楽章で完結だが、D567を移調、一部改変・追加したもの。
第8番 第1楽章の途中まで。
第9番 全4楽章で完結。
第10番 2楽章までで未完。
第11番 あるべき第3楽章を欠く。Adagio D506があてはめられるという説がある。
第12番 第1楽章の途中まで。
第13番 全3楽章で完結。
第14番 全3楽章で完結。
第15番 第2楽章まで完成。第3、第4楽章は途中まで。
第16番以降は、すべて全4楽章で完結。

と、いう具合なので、完成したピアノ・ソナタは11ということになります。このへんが全集録音をしようとする演奏者を大変に悩ませるわけです。

大方の奏者は、作品として成熟し完結している第13番以降を中心に録音をしていくわけですが、中には完全制覇を目指すツワモノがいます。

アンドラーシュ・シフの全集は、現在シューベルト全集の定番の一つとして高い評価を得ていますが、収録したのは19曲。完成している楽章の演奏に専念して、不完全なものや憶測が入るものについては省略した形。

ある意味、楽譜に誠実ということかもしれません。未完になったのはシューベルと自身の選択であり、勝手に付け加えることは作者の意図に反するという考え方で、それはそれで正しい。

でも、完成した形を聴いてみたいというのは無いものねだり的な願望ですが、それも当然生まれてくるものです。学者的に一生懸命研究して、独立した小品として扱われているものを結合したり、あるいはそこまでの展開から想像して残りの部分を加筆・完成させるということもしばしばあるわけです。

そういう、代表的な全集がミシェル・ダルベルトの録音。これはさまざまな小品も含めて、ピアノ独奏曲全集としては最大規模のものです。ソナタは20曲を収録し、それぞれがとりあえず完結した形になっている。

シューベルトのピアノソナタ辞典みたいな様相をていしているわけですが、まぁ内容的にはそれほど悪い演奏とはいえないので、なんとか許容されているといえるかもしれません。

一般の音楽ファンにとっては、最後のソナタ3曲で十分でしょうから、+αのあるすでに紹介した内田盤、あるいは田部盤がお勧めできると思います。とにかく、何が何でもすべてを知りたいと思うマニアは今回のCDがきっと希望を叶えてくれます。

えっ? お前はどっちなんだって? そりゃ・・・適当なマニアなもんで、全部いいと思いますよ。