2012年1月10日火曜日
Atlantis Trio / R.Schumann & C.Schumann Piano Trio
クラシック音楽では、作曲者の意図に沿って演奏することが重視され、作曲された時代の楽器を使って忠実に音を再現する形式を古楽と呼びます。
何度も書いていることですが、宗教の原理主義のようにあまりそこんとこにこだわりすぎると、音を楽しむという本来の目的から外れてしまうので注意が必要。本当に作曲された時代を、演奏する場所、衣服などからすべて再現することは不可能です。
以前、ベートーヴェンのチェロ・ソナタでモダン楽器と古楽器の両方を収録したアルバムを紹介しました。どうしても、古楽器のほうが楽器の音が寂しい感じがしてしまいます。これは今の楽器の音に慣れてしまっているからで、もちろん音楽としての価値が下がるわけではありません。
最近、ピアノを含む室内楽をいろいろ聴いていますが、ピアノ三重奏を中心として最近紹介した物はほとんどがモダン楽器の演奏です。古楽器を避けているわけではないのですが、バロックから古典初期くらいまで(モーツァルトくらいまで)の古楽演奏というのはよりどりみどりなんですが、それ以降(ベートーヴェンくらいから)ではあまり多くない。
当然、時代が新しくなると楽器は現代のものに近づいてくるわけで、そもそも古楽と呼びにくくなってくるのは当たり前。ですからモダン楽器での演奏にほとんど違和感がないわけです。
そもそも、古楽のグループはいろいろあるんですが、グループによってずいぶんと解釈が違うことが多く、むしろ作曲家の意図を本当にめざしているのかも疑問があったりします。もちろん、それはそれでいいと思うわけで、本来演奏する人の感性かほとばしるものであれば、モダンも古楽でもとっちでもいい。
ヤープ・シュレーダーは古楽系バイオリン奏者の草分けの一人ですが、彼が所属するのがアトランティス・トリオ。編成を拡大した場合は、アトランティス。アンサンブル。古楽器を使用するグループとしては、一定の成果を出してきたわけです。今までに彼らが出してきたのは、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーンなどで、バロックではなく古典派後期からロマン派がレパートリーの中心です。
特に面白いのは、アルバムの企画。単純に三重奏を1番から順番に並べるわけではないのです。そこで紹介したいのが、シューマンのピアノ三重奏のアルバム。シューマンのトリオならそれだけのことですが、ここで面白いのは、ひとつはロベルト・シューマンのトリオ、そしてもう一つはクララ・シューマンのトリオです。
音楽史上、有名な仲良し夫婦の曲をカップリングするなんてのは粋な計らいじゃないですか。なかなか両方をまとめて聴くことなんてできるものじゃないですよ。こういう、ちょっと気になる取り合わせをうまくやってみせてくれているところがいい。
こういうコンセプトがはっきりしているアルバムというのは、クラシックではあまりありませんが、存在の意義がけっこうあってたのしいものです。またクラシックの新しい楽しみ方を発見したような気がします。