関節リウマチを心配して、クリニックに来院する患者さんの多くが心配する症状の一つが「朝のこわばり」というもの。
関節リウマチでは、手指から発症することが多く、手指の小さな関節に炎症を起こすことで、関節の痛み・腫れ・発赤・熱感というものが一般的に現れてくるのです。
関節が腫れてしまうと、しっかりと動かすことがしずらいために「こわばる」という症状につながるわけですが、「朝の」というところに問題がある。
もともと1987年に作られた診断のための分類基準の中にチェックすべき項目として「朝のこわばり」というものが入ってきたのが始まり。ただし、60分以上つづくことという但し書きがありました。
実際は、もしもリウマチであれば1時間どころか半日、場合によっては1日中続くわけで、朝だけというものは逆にリウマチ以外のものを考えたくなることが多いのです。
手指の痛みの原因は、若い方では圧倒的に使いすぎ的な腱鞘炎のような原因ノモのが多い。そして中高年以上では、加齢性の変化による痛みが多いわけで、それらに比べると関節リウマチはそれほど多い病気とはいえません。
正確に数えてはいませんが、クリニックにリウマチを心配して来院される方の中で、本当にリウマチであると診断がつくのは20人に一人程度。女子医大リウマチセンターのような専門施設で外来をしていても、10人に一人程度です。
数年前に改訂された分類基準からは、「朝のこわばり」という言葉ははずされました。しかし、すでに言葉が一人歩きして一般に浸透してしまったので、なかなか心配する方が減らない状況があります。
朝のこわばりだけで、関節の痛みや腫れがまったく無い場合には、ほぼ関節リウマチを心配する必要はないのですが、ただごく早期であれば完全に否定することもできないところに医者としてのジレンマがあります。
発症して数ヶ月以上たっていて、典型的な関節の腫れや、場合によっては変形が出現していれば診断は楽ですが、「数日前から痛い」というような場合には、診断は大変困難です。
検査項目はいろいろありますが、これがあれば絶対というものは一つもなく、状況証拠の積み重ねから推定していくしかありません。リウマチ因子と呼ばれるような検査項目でさえ、診断的には絶対ではないのです。
自分の場合もエコー検査も導入して、より超早期の診断をなんとか正確にしていきたいと思っていますが、現実には治療法の極端なくらいの短期間の進歩に比べて、診断学はまだまだ不十分と言わざるをえません。
あと10年、いや20年以内には遺伝子診断学のようなものが実用化してくるのではないかと思うのですが、それまでは刑事ドラマのように、こつこつと歩き回って証拠を集めて犯人を追い詰めていく老刑事のような作業が必要のようです。