2013年7月2日火曜日

Kyung-Wha Chung / Tokyo Live 1998


チョン・キョンファ、鄭京和、Kyung-Wha Chung。1948年生まれの韓国のバイオリニスト。幼い頃からその技巧的なうまさもさることながら、すぐれた感性が評判となり、70年代からはトップアーティストとして認知されるようになりました。

とにかく、感情的に高まる演奏は各国で絶賛され、ムターとバイオリンの女王の座を争っていましたが、2005年に趾のケガを理由に、引退かと噂された長期療養に入ります。2010年に活動を再会し、ちょうど今月も久しぶりの来日公演を行っていました。

1998年の東京での演奏会は、珍しくピアニスト一人だけの伴奏によるリサイタルで、あまりの素晴らしい演奏のために伝説と化していたのです。評論家たちはこぞって大絶賛するものの、それを実際に聴けなかった者にとって、まさに幻のリサイタルでした。

ところが、今年の来日を記念して、15年ぶりにそのときの音源が発掘され発売されました。第1夜のAプログラムと第2夜のBプログラムのすべてが、それぞれ2枚のCDにアンコールを含めてすべて収録されています。

Aプログラムでは、シューベルト、シューマン。Bプログラムでは、ストラビンスキーとバルトーク、その間にバッハの無伴奏という組み合わせ。弱音の美しさというような表現が、褒め言葉としてよく用いられますが、キョンファのバイオリンから出てくるのは、弱音にもかかわらずチロチロと燃えている情念の炎とでもいう感じでしょうか。

シューベルトのファンタジアや、アンコールのG線上のアリアなどで聴くことができる、張り詰めた緊張感は例えようがありません。 一瞬たりとも隙をみせることはなく、聴いている側にもかなりの集中力を要求する演奏だと思います。それは、Bプログラムのバッハの無伴奏パルティータ第2番で最高潮に達します。

ムターのファンの方には申し訳ないのですが、この演奏を聴いてしまうと、ムターの演奏は厚化粧で品がない感じ・・・というと言い過ぎでしょうか。楽しく聴くにはほどよいのですが、圧倒的な表現力は疑いもなくキョンファに軍配が上がると感じられました。