80年代に交響曲全集を完成し、非常に高く評価されている指揮者の一人にエリアフ・インバル(Eliahu Inbal, 1936-)をあげないわけにはいきません。
1974年から1990年までフランクフルト交響楽団の音楽監督を務め、オケの人気・実力を高めたました。ここで、オケとの強い信頼関係ガ築かれていたこともあってか、1985年と1986年の2年だけで(正味ほぼ1年間)第1~9番と第10番アダージョを録音してしまいました。
1985年
第1番、第4番
第2番 ヘレン・ドナート、ドリス・ゾッフェル
第3番 ドリス・ゾッフェル
第8番 フェイ・ロビンソン、テレサ・ケイヒル、ヒルデガルト・ハイヘレ、リヴィア・ブダイ、ジェーン・ヘンシェル、ケネス・リーゲル、ヘルマン・プライ、ハラルト・シュタム
1986年
第5番、第6番、第7番、第9番、第10番
1988年 大地の歌 ヤルド・ヴァン・ネス、ペーター・シュライアー
1992年 第10番(クック版)
これだけの短期間での収録は、マーラー録音史上最短ではないでしょうか (もっとも、1925年のMahler Feestでメンゲルベルクは一人で全曲指揮しましたけど)。現在入手しやすいボックスセットには、大地の歌(1988)、クック版第10番(1992)、少年の魔法の角笛・さすらう若人の歌(1996、ウィーン響)も含まれています。
ベルティーニと同じく、インバルもイスラエル出身。実はインバルも日本とのつながりが深い指揮者で、70年代の日本の三大オケであったN響、日本フィル、読売響にたびたび客演していました。
そして、ベルティーにと同じく1995年以降は東京都交響楽団との関係が強く、2度のマーラー交響曲全曲演奏会を行い、2014年からは桂冠指揮者となっています。
2度目の全曲演奏会は、それぞれが当時の最高品質の技術でライブ録音され発売されましたが、そのせいかCDが高価でボックス化もされていないため、逆にほとんど話題にならないのは残念なことです。
ベルティーニにしても、インバルにしても日本での知名度が高かったこともあって、当時の東芝EMI、DENNONが制作に深く関与していることもあり、その全集は日本向けの要素がたくさん含まれています。そのこともあって、日本のマーラー受容を一気に推進することに貢献したことは間違いありません。
どの指揮者の演奏が好みなのかは、最初に出会ったマーラーが誰の演奏だったかによるところが大きい。実際、自分も開眼したのはアバドのお陰ですから、ルツェルンのアバドのマーラーがスタンダードであって、それと比べてどうなんだろうと自然に思いながら聞いてしまいます。
インバルも、譜面の指示をきっちりと守るタイプの指揮者で、フランクフルトとの全集は全体的には透明感のあるものになっています。当然、激情型が好きな人は物足りない演奏と言う感想を持たれるかもとれません。
アバドは激情型ではありませんが、「円熟の味わい」というような「らしさ」があると思います。ベルティーニに比べると、インバルの方が「らしさ」を感じられるのですが、それを言葉で表すのが難しい。
最初に出会うとその人のスタンダードになりうるマーラーであることは間違いないのですが、フランクフルト響の演奏であることを考慮すると、21世紀になってパーヴォ・ヤルヴィによるビデオ全集の方が演奏能力は上がっているような印象もあります。