クラウス・テンシュテット(Kraus Tennstedt, 1926-1998)は、ドイツ人で元々はバイオリン奏者ですが、26才から指揮者に転向、、1971年に東から西へ亡命して以降知られるようになりました。
1977年にロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と毎年1曲、マーラーをスタジオ収録していました。1983年に同オケの音楽監督に就任して、いよいよこれからという1985年に喉頭ガンを発症しました。以後は治療を続け、体調を見ながらの制限された活動を行いましたが、1993年夏以降状態が悪化し事実上引退しています。
この全集は、EMIのドル箱の一つとなり、たびたび廉価版ボックスとして登場していますが、基本的な録音は、1977年 交響曲第1番、1978年 交響曲第5番、第10番(アダージョのみ)、1979年 交響曲第3番、第9番、1980年 交響曲第7番、1981年 交響曲第2番、1982年 交響曲第4番、1983年 交響曲第6番、ガン発症後の1986年 交響曲第8番となっています。
EMIがWernerに吸収された後の現行盤では、さらに1982年(と1984年)の大地の歌、ライプ録音された1988年 交響曲第5番、1991年 交響曲第6番、1993年 交響曲第7番が追加されています。1993年の第7番は、正規としてはテンシュテットの生涯最後の録音です。
これら以外にも、ハンブルク北ドイツ放送交響楽団とのライブ集、ロンドフィルの自主製作ライブ集、シカゴ響との第1番ライブなどが登場しており、短い活動期間だったことを考えると、テンシュテットがマーラーに費やした時間はかなりの割合だったと思います。
スタジオでのセッション収録の全集は、いずれも主観と客観が同居するバランスの取れた名演なのですが、一般的にはEMIの録音がいまいちで、また残念ながらロンドフィルもオケとしては一流とは云い難いという感想が多いようです。
とは言っても、そこまで細かいことにこだわる必要があるのかという程度であって、純粋に音を楽しむということであれば、些細なことのように思います。
ただし、むしろライブ録音の方が、指揮者・オケ共に緊張感のある好演を残していると言われています。特にガン発症後は、一つ一つの集中力が高く、いずれも高く評価されているので、できれば合わせて聴きたいところです。