マーラーに限らず、声楽曲については高すぎる、あるいは低すぎる声域の声で聴くのはあまり好きではありません。やはり、普段、人の声として聴きなれている周波数帯の方が自然に耳になじむ感じがします。
そういう意味で、女性の場合だと、メゾソプラノ~アルトくらいが聴きやすく、ソプラノだと高音部でキンキンするのがどうしても苦手。好きな歌手は、フォン・オッターなどに偏ることはお許しいただきたい。
マーラーの歌曲では、ソプラノが目立って活躍する場面はあまり多くなく、比較的メゾソプラノのレパートリーとなっていることが多いのは、大変助かるというものです。
ところが、バーバラ・ヘンドリックスだけはソプラノ歌手ですけど嫌いじゃない。珍しいアメリカの黒人歌手ですが、透明感の高いリリック・ソプラノとして70~90年代に人気を博しました。
21世紀になって、ゴスペルやジャズの分野でも精力的に活動し、自主レーベルを立ち上げてやりたいことを精力的に発信し続けています。シューベルトの「アベ・マリア」は自分にとってはベストですし、「冬の旅」は珍しいソプラノ歌唱として素晴らしい出来でした。
ヘンドリックスのソプラノは、年老いてやや声量の落ちは否めませんが、美しい澄んだ歌声はいまだ健在で、このマーラー作品集でも素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。
ここでは「さすらう若人の歌(全4曲)」、「リュッケルト歌曲集(全5曲)」、そして「大地の歌」の終楽章「告別」が収録されています。
「さすらう若人の歌」は声部指定はありませんが、一般的には低域向けとされていてソプラノは珍しい。「リュッケルト歌曲集」も声部指定はありませんが、こちらはときどきソプラノが歌っていることがあります。
ただし、「大地の歌」は二人の独唱者はテノール、アルトまたはバリトンとなっている。ピアノ伴奏譜では低域と高域という曖昧な指定ですが、ここで聴けるのはスウェーデン室内アンサンブルによる伴奏です。
自主レーベルの関係上、話題になりにくいのが残念ですが、知る人ぞ知るみたいな優秀な録音の一つに上がってもいい作品だと思います。