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2020年1月17日金曜日

Monica Groop, Jorma Silvasti, Osmo Vanska / Mahler Das Lied von der Erde (1994)

ルキノ・ヴィスコンティ監督の代表作である、トーマン・マン原作の「ベニスに死す(1971)」の中で、グスタフ・フォン・アッシェンバッハと友人であり理解者でもあるアルフレッドは、芸術論を戦わせるのです。

原作ではアッシェンバッハは小説家であり、映画では心臓が悪い幼い娘を亡くした音楽家、そしてその音楽は聴衆に理解されず演奏会でもブーイングを浴び失意の中、休養のため運命のベニスを訪れる。

当然、アッシェンバッハはグスタフ・マーラーをモデルに改変されており、一部実際の出来事が物語の大きく関わってきています。そして、実はアルフレッドのモデルはアーノルド・・・つまり、アルノルト・シェーンベルクであると言われています。

シェーンベルクは、1874年生まれで、マーラーより14才年下。無調性音楽の開拓者であり、現代音楽を切り開いた偉人の一人に数えられます。マーラーはそういう観点からは、後期ロマン派の調性音楽を極限まで高め、古典的な様式を破壊した偉人と言えます。

シェーンベルグの新しい音楽は、当然初めは聴衆に理解されるはずもありませんでしたが、マーラーは早くからその才能を認めていました。シェーンベルクの初期の集大成と言われている壮大な「グレの歌」などは、マーラーからの影響はかなり強い作品です。

マーラーは、「私はシェーンベルクの音楽が分からない。しかし彼は若い。彼のほうが正しいのだろう。私は老いぼれで、彼の音楽についていけないのだろう」と妻のアルマに語ったと言われています。シェーンベルクは、アルマの70才の誕生日には曲を送ったりして、その晩年までマーラーを敬愛していました。

マーラーの死後、第一次世界大戦が勃発し、戦争が終わった1920年以降、シェーンベルクは優秀な演奏者を失い、少人数での演奏会のために多くの楽曲を用意しました。その中に、既存曲を室内楽用に編曲し直すという作業も多数含まれることになり、交響曲第4番、さすらう若人の歌、そして大地の歌などに手を入れることになります。

そこで、「大地の歌」をシェーンベルク編曲の室内楽版で聴いてみようということなんですが、実は完成させたのリーンと言う人で1983年のこと。マーラーのオリジナルの管弦楽版の楽器編成をみてみます。

独唱 アルトまたはバリトン、テノール
ピッコロ 1
フルート 3
オーボエ 3
クラリネット 4
バスクラリネット 1
ファゴット 3
ホルン 4
トランペット 3
トロンボーン 3
テューバ 1
ティンパニ、バスドラム、タンブリン、シンバル、トライアングル、銅鑼、グロッケンシュピール
ハープ 2
マンドリン 1
チェレスタ 1
弦五部 合計88

と言う具合で、マーラーの「交響曲」としては普通、むしろ少なめの編成です。ところがシェーンベルクはというと・・・

管楽器はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン各1名でおしまい。足りない部分をピアノ、ハルモニウムで補填しました。打楽器担当も一人だけ。弦は、弦五部各1名だけ。つまり、たったの13人のオーケストラです。

マーラー自身によるピアノ伴奏版は、オーケストラ版と比べるとさすがに伴奏はスカスカです。そのかわり、歌曲としての面が強調され、歌手の声量の自由度が増える分、歌いまわしの色彩が増す感じ。

ところが、室内楽版で、楽器が極端に減ったのでさぞかしやはり伴奏はスカスカかと思いきや、これがすごいんです。録音の仕方も関係あるかもしれませんが、ほとんどフルオーケストラと比べて遜色がなく、むしろすっきりした感じすらある。

歌手も伴奏が大音量でない分歌いやすそうで、自然な味のある歌唱を聴かせてくれます。もともとマーラーの曲は、全体の演奏と共に個別に各楽器がソロをとる部分が多いので、ポイントを抑えれば人数が減っても大きな違和感は出ないのかもしれません。足りない部分を多声楽器のピアノとハーモニウムが出しゃばり過ぎずにカバーしている感じです。

今回手に入れたのは、最近ミネソタ交響楽団とのマーラー・チクルスで評価が上がっているオスモ・ヴァンスカが指揮をとるもの。メゾソプラノのグループもテナーのシルヴァスティは嫌みの無い声質で好感が持てます。