2022年8月20日土曜日

俳句の勉強 26 視点移動

俳句は映像詩。たった17文字の中で、感じたものを映像としていかに凝縮させるかということ。圧縮した映像を、読み手がその人なりに解凍して何らかの感慨を得るのが醍醐味です。

約束事となる季語が、最低限の共通の映像を提供してくれるので、季語からスタートして目的となる映像に着地するのか、あるいは逆に最終的に季語の映像に収束させるのか、それは俳句を作る人の自由であり技術というところ。

この中で、切れ字の役割は大きくて、切れを入れることで視点を変えることができて、1シーンの中が1カットから2カットに増えて中身が膨らんできます。ただし、17文字を2シーンにしたり、3カット以上にすると、ブツ切れになり過ぎてまとまりが無くなってしまうので注意が必要です。

桐一葉日当たりながら落ちにけり 高濱虚子

上を見上げると桐の葉がある。陽の光を浴びている葉が枝から離れ、ゆらゆらと落ちてきて地面に着地したということ。視点の移動は高い所から低い所へ、上から下へと縦方向に動いていくようにできています。

流れ行く大根の葉の早さかな 高濱虚子

目の前の小川に上手から大根の葉が流れてきたが、速い流れに乗って下手に去っていった。今度は視点の移動は横方向、上手から下手です。

もちろん静的な映像をじっくりと呼んだ秀句は当然あるんですが、初心者は視点を動かした方が、俳句にダイナミックな雰囲気が加わり面白くなるようにに思います。静的な句を一句。

香を残す蘭帳蘭のやどり哉 松尾芭蕉

芭蕉が悦堂和尚の隠居を訪ねた時、実に清楚な蘭のような部屋だったと感じたという内容で、静かに身動きせずに嗅覚だけを鋭敏にしている芭蕉の姿が思い描けます。


それでは視点移動を意識して作ってみます。

盆の月櫓(やぐら)遠巻き指銜(くわ)え

「盆の月」は初秋の季語で、仲秋の名月の一つ前の満月。つまり、今の暦でちょうどお盆の頃のことで、各地の町内では広場で盆踊り大会などが盛んに行われます。空に満月があり、広場で櫓の周りを踊っている人たちが楽しそうにしています。それを遠巻きに見物している自分は、踊りが出来ないのか、あるいは恥ずかしいのかその輪に入れずに指をくわえて見ているだけ。

空から視点を下に移動してくると盆踊り。そして、さらに指先のアップにまでカメラを寄せていくという雰囲気です。もちろん実際に自分の指を口に突っ込んでいるわけではありませんが、高から低、遠から近、大から小という三次元的な視点移動ができたように思います。